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- 破綻REITの投資主総会~「黒い白鳥(ブラック・スワン)」のいない市場に向けて~
コラム
2009年05月22日
昨年10月に民事再生法適用を申請し、不動産投資信託(J-REIT)として初の破綻事例となったニューシティ・レジデンス投資法人(以下、NCR)の投資主総会が、5月13日に都内で開催された。NCRの執行役員によるお詫びの言葉で始まった総会は、民事再生に至った経緯や総会議案の説明に続き、投資主との質疑応答に移る。しかし、「ハゲタカ外資によって安く買い叩かれた」と疑念を抱く投資主と、「既存投資口の買取りや債権弁済率100%などスポンサー選定に最善を尽くした」と自負する投資法人側との溝は埋まらず、開始から3時間以上が経過したところで総会延会を求める緊急動議が出されたが、結局、補欠執行役員の選任など全ての議案が承認可決された。
総会に先立ち4月に公表されたNCRの再生計画案は、米投資ファンドのローンスターを新スポンサーに、(1)スポンサーを対象とする第三者割当増資(1.5万円/1口、総額60億円)、(2)既存投資口の公開買付け(3.5万円/1口、総額63億円)、(3)5年間での再生債権の100%弁済、(4)役員・資産運用会社の変更を主な骨子として、5年以内の再上場を目指しており、今後は、債権者集会の承認を経て8月にも裁判所に認可される見通しである。
105物件・1,800億円相当の賃貸住宅からなる不動産ポートフォリオに対して、キャップレート(還元利回り)7-8%と推定される価格付けは、事前の下馬評やディストレス(破綻証券)投資の観点からすれば、強気の投資判断と言えるかもしれない。しかし、今回の再生プロセスでは、既存ポートフォリオを維持し、債権カットもない。また、新スポンサーは住宅運用の経験に乏しいため、現在の資産運用会社のスタッフはそのまま新会社へ移籍するとのことだ。仮に、REITの評価軸が不動産ポートフォリオの質と資産運用会社のノウハウだとすれば、NCRの本源的価値は、破綻前後において何1つ変わっていない。にもかかわらず、自己責任のお題目のもと、既存投資主だけが多大な損失を負担することについて、投資主の代理人たるNCRの執行役員は、十分に説明責任を果たしたであろうか。
「まぐれ(邦訳)」などのベストセラーで有名なナシーム・ニコラス・タレブ氏は、かつて、オーストラリアで黒い白鳥が発見され、それまでの経験から白鳥は白いと思い込んでいた常識が覆ってしまった出来事をもとに、「予期しない稀な事象で、人々に大きな衝撃をもたらし、事後的に説明のつく事件」を、「黒い白鳥(ブラック・スワン)」と呼んでいる。ノーベル経済学者の運用するヘッジファンドの破綻や昨今の金融危機などがまさにそうである。
公募上場投信であるJ-REITの安全神話が崩壊し、その後の市場急落を引き起こしたNCRの破綻も、「黒い白鳥」にふさわしい。そして、再生計画通りにいけば、この「黒い白鳥」は、看板をかけ替えたのち、5年を目処に「白い白鳥(ホワイト・スワン)」となって舞い戻ることになる。それまでの間、我々が再び「黒い白鳥」を目撃することはないであろうか。もっとも、「黒い白鳥」は、「outlier(めったに起きない例外)」が条件のため、40社余りと小さなJ-REIT市場で、万が一にも次なる破綻が生じた場合、我々の観察するJ-REITは、もともと「白」でなかったことになりかねない。
昨年2月時点におけるNCRの投資主数は6,737人、うち個人投資家が6,370人だったが、総会時点の投資主数は3,400人余りであり、突然の破綻を聞いた多数の個人投資家は、不信感を持ったままに投資口を投げ売ったものと推測される。こうした個人投資家への説明責任を果たすためにも、NCRには総会の質疑応答の内容を開示してもらいたい。そこには、現在のJ-REIT市場の抱える課題と再生へのカギが、多く含まれているであろう。
昨年末より、J-REITを対象に公的資金を活用した資金繰り支援やモニタリング強化など政策対応が相次いで発表され、市場のセーフティネットは相当に整備・拡充されたが、まだ強化の余地は残されている。「黒い白鳥」の紛れ込まない市場に向けて、投資家保護のあり方など、当局には不断の検討・取り組みを期待したい。
総会に先立ち4月に公表されたNCRの再生計画案は、米投資ファンドのローンスターを新スポンサーに、(1)スポンサーを対象とする第三者割当増資(1.5万円/1口、総額60億円)、(2)既存投資口の公開買付け(3.5万円/1口、総額63億円)、(3)5年間での再生債権の100%弁済、(4)役員・資産運用会社の変更を主な骨子として、5年以内の再上場を目指しており、今後は、債権者集会の承認を経て8月にも裁判所に認可される見通しである。
105物件・1,800億円相当の賃貸住宅からなる不動産ポートフォリオに対して、キャップレート(還元利回り)7-8%と推定される価格付けは、事前の下馬評やディストレス(破綻証券)投資の観点からすれば、強気の投資判断と言えるかもしれない。しかし、今回の再生プロセスでは、既存ポートフォリオを維持し、債権カットもない。また、新スポンサーは住宅運用の経験に乏しいため、現在の資産運用会社のスタッフはそのまま新会社へ移籍するとのことだ。仮に、REITの評価軸が不動産ポートフォリオの質と資産運用会社のノウハウだとすれば、NCRの本源的価値は、破綻前後において何1つ変わっていない。にもかかわらず、自己責任のお題目のもと、既存投資主だけが多大な損失を負担することについて、投資主の代理人たるNCRの執行役員は、十分に説明責任を果たしたであろうか。
「まぐれ(邦訳)」などのベストセラーで有名なナシーム・ニコラス・タレブ氏は、かつて、オーストラリアで黒い白鳥が発見され、それまでの経験から白鳥は白いと思い込んでいた常識が覆ってしまった出来事をもとに、「予期しない稀な事象で、人々に大きな衝撃をもたらし、事後的に説明のつく事件」を、「黒い白鳥(ブラック・スワン)」と呼んでいる。ノーベル経済学者の運用するヘッジファンドの破綻や昨今の金融危機などがまさにそうである。
公募上場投信であるJ-REITの安全神話が崩壊し、その後の市場急落を引き起こしたNCRの破綻も、「黒い白鳥」にふさわしい。そして、再生計画通りにいけば、この「黒い白鳥」は、看板をかけ替えたのち、5年を目処に「白い白鳥(ホワイト・スワン)」となって舞い戻ることになる。それまでの間、我々が再び「黒い白鳥」を目撃することはないであろうか。もっとも、「黒い白鳥」は、「outlier(めったに起きない例外)」が条件のため、40社余りと小さなJ-REIT市場で、万が一にも次なる破綻が生じた場合、我々の観察するJ-REITは、もともと「白」でなかったことになりかねない。
昨年2月時点におけるNCRの投資主数は6,737人、うち個人投資家が6,370人だったが、総会時点の投資主数は3,400人余りであり、突然の破綻を聞いた多数の個人投資家は、不信感を持ったままに投資口を投げ売ったものと推測される。こうした個人投資家への説明責任を果たすためにも、NCRには総会の質疑応答の内容を開示してもらいたい。そこには、現在のJ-REIT市場の抱える課題と再生へのカギが、多く含まれているであろう。
昨年末より、J-REITを対象に公的資金を活用した資金繰り支援やモニタリング強化など政策対応が相次いで発表され、市場のセーフティネットは相当に整備・拡充されたが、まだ強化の余地は残されている。「黒い白鳥」の紛れ込まない市場に向けて、投資家保護のあり方など、当局には不断の検討・取り組みを期待したい。
(2009年05月22日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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