コラム
2009年05月21日

ワーク・ライフ・バランスは3歳まで?~子育て支援の時限

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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先月4月21日、通称「育児・介護休業法」(正式には「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律」)の改正案が閣議決定され、国会に提出された。

法改正の背景には、わが国の合計特殊出生率の長期にわたる低迷による急速な少子化がある。1975年以降、わが国の合計特殊出生率は2人未満で低下傾向を続け、1997年以降は超少子化(lowest-low fertility)といわれる1.3未満に迫る1.3人台を前後している(2003年から2005年は1.2人台)。この少子化をなんとか食い止めようと様々な政策が検討されているが、そのひとつが今回の育児・介護休業法改正案である。

改正案では少子化対策としては「子育て期間中の働き方の見直し」ならびに「父親も子育てが出来る働き方の実現」が柱となっている。

この2つの柱のうち、「子育て期間中の働き方の見直し」には、非常に画期的な「短時間勤務制度の義務化」と「所定外労働(残業)の免除の義務化」が含まれている。

子育て中の労働者に対し、事業主は1日6時間の短時間勤務を制度化しなければならなくなり、また労働者の請求により残業免除を行うことも義務付けられる。現行法では短時間勤務・残業免除などの勤務時間の短縮は「時間短縮等の措置」として事業主が育児中の労働者に対して提供する勤務制度の1つとして選択可能(つまり、選択しないことも可能)な制度であるが、改正案では労働者が選択可能な制度として必ず提供しなければならない制度となる。

筆者もそうであるが、もし法改正が行われれば、子どもを保育園に預けながら勤務する労働者にとっては朗報である。保育園の送迎に心のゆとりをもって臨むことができる。とりわけ、短時間勤務が認められることになれば、保育園の送迎に人を雇う経済的余裕がない、保育園の送迎は両親の手で行いたい、そんな労働者の願いが叶うだろう。

但し残念ながら、今回の法案では短時間勤務ならびに残業免除の適用に「3歳までの子を養育する労働者」というくくりがついている。3歳以降就学までについては現行法通り、短時間勤務・残業免除・フレックスタイム・始業終業時刻の繰り上げ繰り下げ・託児施設の設置運営・託児施設の運営に順ずる便宜供与・育児休業に順ずる措置を提供する「努力義務規定のみ」のままである。

この年齢規定をめぐっては厚生労働省政策審議会下の部会で労使の話し合いがもたれ、労働者側からは就学前までの声が強かったものの、経営者側からは「長期間の時間短縮勤務は女性のキャリア形成に影響する」「経営に影響をもたらす」などの「3歳まで」の声が強く、結局労働者側が譲歩する結果となった。

平成19年度雇用均等基本調査をみると、3歳までの育児に関する時間短縮等の措置がある企業は全体の56.5%にのぼり、3歳までに何らかの育児時短措置を行うことに関しては過半数の企業が対応している。一方、小学校就学まで育児時間短縮等の措置がある企業は30.0%と3社に1社弱の広まりである。つまり今回の法改正では、企業側の立場から過半数の企業の了解が得られている3歳までという「育児時限」が採択され、その内容については、短時間勤務と残業免除を措置義務とするという労働者の立場に立った採択が行われ、両者のバランス調整が行われたと言える。

しかしながら、わが国の労働時間は欧州先進国に比べ長く、労働時間生産性は先進国7カ国で最下位である。この観点から見れば、時間短縮労働が経営・従業員のキャリアアップにマイナスであるというわが国経営者の考え方は大いに検討の余地がありそうだ。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

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