2009年01月26日

真の株主重視経営を日本再生の糧に

萩尾 博信

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オバマ新大統領は「今回の金融危機が我々に何かを教えてくれたとしたら、それは町のメインストリートが疲弊しているときに、ウォールストリートだけが栄えておれないことを記憶しておこう」(2008年11月の勝利演説)と述べた。これを株式市場にあてはめれば、企業や経営者だけが繁栄して、株主や従業員を大切にしない経営は長続きしないということであろうか。
今回の危機は実体経済への影響も激しく、震源地である米国では企業経営の真価が問われている。一方、わが国では企業が株主価値を最大化するように経営されているわけではないとの主張は従来から根強いが、暴落した株価の回復が望まれる中、企業統治(コーポレート・ガバナンス)の問題も、再考すべきだと思われる。
近年は、日本の伝統的な企業システムの特徴であったメインバンクシステム、株式持ち合い、内部昇進者からなる取締役会、長期安定雇用などが「変容を遂げた10年」であった。とりわけ経営システム改革が、経営組織における執行と監督機能の分離に加え、社外(独立)取締役の導入という形で着実に進んでいる。
また、日本企業への敵対的買収を活発化したアクティビスト・ファンドを念頭に、買収防衛策の指針などを公表してきた経済産業省・企業価値研究会が、ブルドックソース判決を機に、企業の防衛策導入や持ち合いが増加した環境の変化を踏まえた報告書(2008年6月末)を発表したのは、一部の利害関係者の利益を犠牲にしてまで、経営者が行き過ぎた保身を図るかのような風潮に釘を刺し、特に海外投資家の日本株離れを防ぐ戦略的なメッセージだと考えられる。
持ち合いで、特別決議が可能な3分の2は無理でも、過半数を押さえておけば、総会の勧告的決議で経営者の地位が磐石だとの認識は甘いかもしれない。企業パフォーマンスに悪影響を与えるとの実証分析があるのにもかかわらず、持ち合いを推進した結果、たとえ百年に一度の確率であっても大幅な評価損を被ったのなら、株主への説明責任があろう。
企業がアクティビスト・ファンドの魔の手から逃れる最大の防衛策は、既存株主の経営者への厚い信頼感の醸成(株式を売らずに保有継続)である。それには、短期的な収益に拘らず、長期的視点から研究開発・設備投資や企業買収に取り組み、使途がなければ自社株買いで手元流動性を減らすなど、経営者が一株当たりの収益性の向上に最優先で取組む姿勢を顕示し続けるしかないだろう。ただし、将来の価値を生み出す人材の尊重なくして、企業の持続的な発展は望めない。最近の目に余る従業員搾取的な経営によって、短期的な収益を確保しても、長期の投資家には喜べない。真の株主重視経営が来るべき「再生の10年」の糧になると信じたい。

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