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日本企業は、90年代初頭の資産バブル崩壊以降、「失われた15年(あるいは10年)」と呼ばれた構造調整の時期を漸く乗り切り、業績の回復が定着しかけた矢先に、再び、世界的なバブル崩壊の連鎖に遭遇している。
「失われた15年」で日本企業がしてきたことは、雇用・設備・負債の「3つの過剰」を解消する努力であった。人員削減、設備投資抑制、資産売却による借入金の返済など、数値に直接反映する効率性の追求が企業経営の中心課題となった。また、環境変化に適応できない企業は市場からの退出を余儀なくされる構図のなかで、「選択と集中」を合言葉にした企業の合従連衡が進み、M&Aや部門売却などが決して珍しくないものとなった。
ところで、この「3つの過剰」の解消過程で、それまでの終身雇用・年功序列に代表される「日本的経営」に慣れ親しんできた日本企業の従業員は、思いもよらぬ体験をすることとなった。本来は事業の再構築を表す言葉であったはずのリストラクチャリングが、国民の間では「リストラ」として人員削減の意味で広く通用するほど身近な存在になり、また、職場には成果主義の人事制度が導入され、前向きな企業のパフォーマンス改善の仕組みというよりは人件費削減意図が前面に出てきた例などが象徴的である。
たしかに、この過程を経て、日本企業の贅肉が削ぎ落とされ、長年の課題であったROE(株主資本利益率)も改善することとなった。ただし、それは、企業の産み出す付加価値が拡大する形というよりは、付加価値が増えないなかで、その配分における企業側取り分が増加する、すなわち従業員取り分が減少する形で実現された。また、「選択と集中」戦略の副作用で、将来の成長のシーズまで手放すような意思決定もあったようだ。
折しも、日本企業は再度のバブル崩壊のなかで、この難局を乗り切ることが喫緊の課題だ。この混乱の中で、日本の金融機関による経営難の米国金融機関への資金投入、あるいは、国内企業同士あるいは海外企業に対する戦略的なM&Aといった事例も出てきている。これは、自らのビジネスモデルそのものを見直すものと言えよう。
日本企業が、ここからの難局乗り切りを考える際、付加価値の配分に着目した旧来路線では早晩限界に達することが想定される。やはり、生み出す付加価値そのものを増やす形での企業業績改善という戦略への切り替えが必要である。
経営環境激変の今こそ、日本企業は、この状況により良く適応し、世界に先駆けた新たな「日本的経営」を構築する好機であるとは言えないか。
経済情勢の激変に加え、少子高齢社会といった社会構造の変化、そして人類社会や地球環境への配慮が重視される時代の要請など、日本企業経営の持続可能性を取り巻く枠組みは変化しつつある。新たな「日本的経営」には、これらの複数の課題に同時に対応するための最適解として導き出されることが望まれる。
(2008年12月26日「基礎研マンスリー」)
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