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保険は、多くの人が保険料を拠出し、保険事故が発生した人に給付を行う助け合いの制度である。一方で、保険事故が発生しなかった人には給付は行われない。このため保険制度では加入者の負担を公平に決めることが重要になる。
そこで公平な負担であるが、各加入者のリスクに応じた保険料を設定することが考えられる。民間の保険制度はこの考え方で運営されており、性、年齢別に保険料が決められる。死亡率等には男女差があること、高齢者ほど高率であることを反映したものである。しかし、各加入者に1年満期の保険料を設定すると、若齢者は安い負担ですむが、高齢者には負担できない水準になる恐れがある。
この問題を解決するための方法は2つある。1つは各加入者の1年満期保険料の合計額を加入者数で除して求めた平均値を各加入者の保険料とする方法である。この方法では、保険料は各年齢とも同額になり、高齢者でも負担が可能になる。若齢者は若いうちは自分のリスクよりも高い保険料を負担することになるが、高齢になったときには割安な負担ですむ。企業単位で加入するグループ保険や一部の共済制度で採用されている方法である。公的医療保険は公費投入部分がある等、民間の保険と同列に論じることはできないが、この方法に拠っていると考えられ、若い加入者が多い組合健保等から高齢者医療に対して拠出金が支払われている。しかし、この方法では加入者の平均年齢が上昇すると、保険料を引き上げざるを得なくなる。公的医療保険は今、この問題に直面している。
もう一つの方法は、加入者ごとに生涯の保険事故発生率を見積もり、それを賄える定額の平準化された保険料を設定するものである。この方法でも若いうちは自分のリスクよりも高い保険料を負担することになるが、この超過部分は積み立てられ高齢になったときに取り崩して使用されることになる。加入者分布が高齢化しても保険料を引き上げる必要がない方法であり、民間の長期保険で用いられている。団塊の世代の方なら、若いころ(組合健保等が高齢者医療に拠出していなかったころ)、健保組合から体重計などの健康グッズをもらった記憶をお持ちの方が多いのではないかと思うが、そのお金を将来のために積み立てておけるような仕組みがあってもよかったのかもしれない。
公的医療保険の財政が厳しさを増す中、健全な公的医療保険制度を維持するためには制度への国民の理解を得ることが重要である。そのためには公費投入部分も含めた、加入者負担の公平性がますます重要になってくるのではないか。
(2008年09月26日「基礎研マンスリー」)
猪ノ口 勝徳
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