コラム
2008年09月16日

リーマン・ブラザーズの経営破たん

櫨(はじ) 浩一

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1.公的資金の投入がネックに

米国第四位の証券会社であったリーマン・ブラザーズは、日本の民事再生法に相当する米国連邦破産法11条の適用を裁判所に申請した。先週末からFRB(米連邦準備制度理事会)や財務省を交えた民間金融機関との協議で、他の金融機関への身売りや出資の受け入れなどを模索してきたが不調に終わり、自力再建を断念して法的整理を余儀なくされた。

日本でも1990年代末の金融危機の際には、金曜の夕方に金融機関の経営破たんが報じられ、土日で金融市場が閉じている間に処理が行われるということが繰り返された。今回も週末の間には救済策がまとまり、米国市場が開くまでには決着を見るだろうと期待されていたが、それは裏切られ株価は大きく下落している。

救済交渉のネックになったのは公的資金の利用を財務省が拒んだことで、ポールソン米財務長官は記者会見で、公的救済は一度も考えなかったと語ったと伝えられている。ベアー・スターンズの救済を支援した3月とは状況が違うというのがその理由だ。

2.ベアー・スターンズ救済との違い

3月に第五位のベアー・スターンズが危機に陥った際には、事実上公的資金を使ってJPモルガン・チェース銀行との合併を支援した。このときには、まだ証券会社の資金繰りを支援する制度が無く、証券会社が連鎖的に資金繰り困難に陥る危険があった。ベアー・スターンズ危機の際に、プライマリーディーラー向け連銀貸し出し制度が設けられており、ベアー・スターンズのような資金繰り難で突然、経営破たんに追い込まれるというリスクは現在では無くなっている。

とはいうものの、リーマン・ブラザーズの経営破たんが、「次は・・・」という連想を呼んで、金融機関の株が次々と売られて下落するという展開になりかねない。格好の標的となるのは確実と考えた第三位のメリルリンチは、先手を打ってリーマン・ブラザーズの身売り先候補のひとつだったバンク・オブ・アメリカによる救済合併の道を選んだ。ベアー・スターンズ危機から状況が大きく改善して、公的資金の必要性が無くなっているわけではない。

3.公的資金の投入はさけられず

一時は相次いだオイルマネーなどソブリン・ウエルス・ファンドによる資本増強の話も聞かれなくなっているなど、金融機関が自力で資本の増強を行うことは困難になっている。現在は体力のある金融機関も、このまま金融市場の混乱と景気の低迷が続けば次第に体力が低下して、他の金融機関を救済する余力がなくなって行く。

ベアー・スターンズの救済にFRBと財務省が乗り出したことは、米国が日本のバブル崩壊を研究し、多くの教訓を学んだためと考えられていた。先日米政府は、GSE(政府系住宅金融機関)のファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)とフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)を政府の管理下に置いて支援に乗り出したが、金融市場はこれを好感していた。

安易な救済が相次げば、金融機関のモラルハザード(倫理の欠如)が強まり、財政負担が拡大すると判断したのだろう。しかし日本の教訓は、これを恐れて事態を悪化させてしまえば、結局より大規模な財政資金投入による救済を行う羽目になり、国民の負担は却って拡大してしまうことを教えている。

11月に行われる大統領選挙後に新政権がこうした決断をすることになるのだろうか。大統領選挙があるので米国の金融当局は思い切った対応が難しいのではないかという不安が高まれば、金融市場が更に混乱して新政権の発足を待つことができない可能性もあるだろう。いずれにせよ金融市場の混乱を収めるためには、大規模な公的資金の投入が避けられなくなる可能性が高いだろう。

(2008年09月16日「エコノミストの眼」)

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