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- J-REIT市場の規律ある発展に向けて~割安増資に揺らぐ投資家と資産運用会社の信頼関係~
コラム
2008年07月07日
順調に成長を続けていたJ-REIT(不動産投資信託)市場は、昨年のサブプライムローン問題の影響などを受けて急落し、一時6.7兆円あった市場時価総額は現在4兆円にまで縮小、現在も回復の兆しが見えない。こうした中、この7月には、産業ファンド投資法人が予定していた約300億円の公募増資の中止を発表、上場REITによる公募増資中止は初のケースとなった。
今回の中止決定は、増資発表後に投資口価格が約2割下落するなど厳しい市場評価を反映したもので、ディスカウント増資(割安増資)による既存投資主持分の希薄化が回避され、投資主利益は保護されることになった。半面、準備に費やされた労力や、予定していた物件取得の中止に伴う信用力の低下懸念などを考えると、その代償も大きいだけに、J-REITの資産運用会社にとって苦渋の決断であったと思われる。
J-REITは、運用ガイドラインに負債比率の上限を定める保守的な財務運営のもと、物件取得による不動産ポートフォリオの収益拡大とリスク分散を通じて、安定的に分配金を投資家に還元する金融商品である。このため、増資による資金調達はJ-REITの成長に不可欠なものといえるが、今回の事例は、現在の市況下での公募増資が、一部の銘柄にのみ許されることを改めて証明する結果となった。つまり、仮にPBR(株価純資産倍率)1倍以上を公募増資の目安とすると、上場42銘柄中33銘柄が公募増資できないことになる。
ところで、J-REITの増資には、もう1つ、第三者割当増資がある。J-REITの本来価値に比べた割安性に注目する投資ファンドも多いなか、投資主利益の最大化を使命とする資産運用会社が、J-REIT支配を目論む投資ファンド、あるいは高値仕込みの物件の売却を急ぐスポンサー会社を利するかのように、投資ファンドの甘言に乗って第三者割当増資を実施し、投資主利益を毀損することはないだろうか。東京証券取引所は、上場企業における既存株主の権利・利益を侵害しかねない第三者割当増資等の増加を問題視しているが、実はJ-REIT市場でも、2008年度に入って、割安価格での第三者割当増資が2度行われている。投資家と資産運用会社の信頼関係を前提とするJ-REITにおいて、このような事態が相次げば、市場への信認は大きく低下しかねない。
また、公募増資の度に投資口価格が不安定となる現状は、個人投資家が長期的な視点から安心して投資できる環境とは言えない。一方、投資口価格低迷に打つ手が限られる中で成長を求められる資産運用会社にも同情の余地があろう。投資家の信頼向上と市場の規律ある発展には、投信法(投資信託及び投資法人に関する法律)に定める新規投資口発行に関する要件等を緩和し、新株予約権付社債(CB)、現物出資制度、投資主割当制度の解禁など、制度改正を検討すべき時期を迎えていると思われる。
今回の中止決定は、増資発表後に投資口価格が約2割下落するなど厳しい市場評価を反映したもので、ディスカウント増資(割安増資)による既存投資主持分の希薄化が回避され、投資主利益は保護されることになった。半面、準備に費やされた労力や、予定していた物件取得の中止に伴う信用力の低下懸念などを考えると、その代償も大きいだけに、J-REITの資産運用会社にとって苦渋の決断であったと思われる。
J-REITは、運用ガイドラインに負債比率の上限を定める保守的な財務運営のもと、物件取得による不動産ポートフォリオの収益拡大とリスク分散を通じて、安定的に分配金を投資家に還元する金融商品である。このため、増資による資金調達はJ-REITの成長に不可欠なものといえるが、今回の事例は、現在の市況下での公募増資が、一部の銘柄にのみ許されることを改めて証明する結果となった。つまり、仮にPBR(株価純資産倍率)1倍以上を公募増資の目安とすると、上場42銘柄中33銘柄が公募増資できないことになる。
ところで、J-REITの増資には、もう1つ、第三者割当増資がある。J-REITの本来価値に比べた割安性に注目する投資ファンドも多いなか、投資主利益の最大化を使命とする資産運用会社が、J-REIT支配を目論む投資ファンド、あるいは高値仕込みの物件の売却を急ぐスポンサー会社を利するかのように、投資ファンドの甘言に乗って第三者割当増資を実施し、投資主利益を毀損することはないだろうか。東京証券取引所は、上場企業における既存株主の権利・利益を侵害しかねない第三者割当増資等の増加を問題視しているが、実はJ-REIT市場でも、2008年度に入って、割安価格での第三者割当増資が2度行われている。投資家と資産運用会社の信頼関係を前提とするJ-REITにおいて、このような事態が相次げば、市場への信認は大きく低下しかねない。
また、公募増資の度に投資口価格が不安定となる現状は、個人投資家が長期的な視点から安心して投資できる環境とは言えない。一方、投資口価格低迷に打つ手が限られる中で成長を求められる資産運用会社にも同情の余地があろう。投資家の信頼向上と市場の規律ある発展には、投信法(投資信託及び投資法人に関する法律)に定める新規投資口発行に関する要件等を緩和し、新株予約権付社債(CB)、現物出資制度、投資主割当制度の解禁など、制度改正を検討すべき時期を迎えていると思われる。
(2008年07月07日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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