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例えば、全国にスワンベーカリーをチェーン展開する株式会社スワンが挙げられる。スワンは、宅急便の発明者として有名なヤマト運輸の故小倉昌男氏が社会貢献の世界で成し遂げた「もう1つの発明」である
この発明は、「ハンディキャップのある人が従業員として働き、月給10万円以上を得ることができる焼きたてパンの店」である。これは、「ビジネスモデル」におけるイノベーションであり、同時に、「社会貢献モデル」におけるイノベーションである。それまで、ハンディキャップのある人の職場では賃金が低いのは常識となっていたが、このイノベーションは、それを覆した。
ところで、社会貢献を目指す組織が創出するイノベーションは、スワンの例はもとより、コーヒーを生産農家から適正価格で買い取ることにより支援を行う「フェアトレードコーヒー」に代表される「フェアトレード」のように、技術面でのイノベーションを伴わないタイプのものが目に付く。
他方、社会問題の解決のためのアプローチには、技術面でのイノベーションも有効なはずである。例えば、低価格の医薬品や低価格のIT機器が発明されれば、これまで所得が不十分であるが故に、健康が維持できない、あるいは、IT基礎知識を身につける機会に恵まれないといった人々にとって大きな福音である。
とはいえ、技術的色彩の濃いイノベーションは、社会貢献組織が創出するには敷居の高い領域となっている。通常、それには大量の経営資源の投入が必要であり、しかも、営利企業との開発競争に勝つ必要があるといった極端なケースさえも想定される。このような競争環境下で、経営資源が必ずしも潤沢とはいえない社会貢献組織が技術的なイノベーション創出にまで辿り着くのは、非常に困難と言わざるをえなかろう。
新たなロジックや素材、製造過程といった側面におけるイノベーションの生み出した高機能あるいは低価格製品は、もちろん営利企業の利益源泉である。それと同時に、社会貢献の立場から見れば、営利企業の創出するイノベーション群は社会問題解決に使える素材の宝庫かもしれない。
そこで、考えられるのがイノベーションの「ソーシャル化」である。すなわち、営利企業が創出したイノベーションを社会問題解決のために用いることである。この意思決定は営利企業の経営者がなすべきことだが、その際のポイントは、「広告宣伝費感覚の社会貢献」スタイルとしないことである。社会問題の解決と利益拡大とが両立する戦略を選ぶことができれば、これこそ本業と一体化した社会貢献であり、かつ、営利企業の利益源泉としても機能するスタイルである。「できるものならやってみろ」という声が聞こえてきそうだが、本来のCSRは、ここにあるのではないかと考える。
(2007年10月18日「研究員の眼」)
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