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再び“凍りつく”? 高齢者の負担増 ― 介護保険でもあったような・・・

阿部 崇
一昨年から始まった医療制度改革の柱でもある「高齢者医療の“負担”と“受益”の明確化」という方針を骨抜きにするとも思える議論が、新制度スタートの僅か半年前に急浮上した。現在は、連立両党のプロジェクトチームにて、凍結の期間、法改正ないし予算措置といった方法論、財源、スケジュール等の具体的な議論が進められ、今月中にも大筋の結論が得られる予定である。
確かに、「高齢者の生活に直結するので、・・・きめ細やかな対応に努めたい」とした首相の考え方は一定の理解ができる。しかし、社会保障制度が抱える喫緊の課題のひとつの解として、長い時間と多くのお金を使って議論された改正制度の仕組みに対し、この時期に急ハンドルをきることについては疑問が残る。
翻れば、7年前の介護保険制度導入直前にも今回とほとんど同じ状況があった。介護の社会化、措置から契約へ、そして、「負担と受益(介護サービス)の明確化」を理念にスタートした介護保険制度も、“介護保険料”という65歳以上の高齢者の新たな負担について、半年間の全額凍結、さらに1年間の半額凍結という途をたどった。介護保険制度の場合、介護サービス整備の遅れ等の事情もあり、「保険あってサービス無し」という批判を恐れた政府与党が、制度の円滑導入を企図したという理由もあった。しかし、負担増凍結の先輩格である介護保険制度の経験について、その功罪を含めた総括が行われていないことも事実である。
負担(実感)のないままに制度だけをいつの間にかスタートさせ、近い将来“もともと予定された”負担を当たり前のように強いることは、果たして「きめ細やかな対応」と言えるのであろうか。その意味で、今回の負担増凍結の措置は、理念のない急場しのぎと見られても止むを得ない。
「きめ細やかな対応」とは、制度の持続可能性という大義の下でようやく作り上げた仕組みを、僅か1ヵ月の議論で繕い続けることではないだろう。同じ結論(負担増を見直す)を導くのであれば、急場しのぎではなく、「65歳以上の自己負担は介護も医療も1割で共通に」、そして、「後期高齢者医療制度の公費負担割合(5割)について高齢者保険料の部分を肩代わりし6割に引き上げ」という形など、“凍結を融かさない”仕組みを再度根っこから議論する姿勢が必要なのではないか。
※ 後期高齢者医療制度の具体的な内容については、基礎研レポート10月号 医療費削減を担う高齢者の「財力」と「体力」を参照
(2007年10月12日「研究員の眼」)
阿部 崇
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