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1.欧州に飛び火した米サブプライムローン問題
米国のサブプライムローン(個人向け住宅融資で信用度の低いもの)問題は、欧州に飛び火した。仏大手銀行傘下の投資ファンドが米国のサブプライムローンに関連した損失を出したことが明らかとなったことがきっかけとなって、欧州の金融機関が余剰資金を短期金融市場で運用するのを手控えたため短期資金が逼迫した。これに対してECB(欧州中央銀行)は、9日は948億ユーロ、10日は610.5億ユーロという大量資金供給を2日連続で行った。
米国でもFRB(連邦準備制度理事会)が、9日は240億ドル、10日には380億ドルの大量資金供給を行った。これほど大規模な資金供給は2001年9月の同時多発テロ事件以来のことである。カナダ中央銀行なども協調して資金供給を行っており、日銀も10日には1兆円の資金供給を行っている。
何か大きな問題が発生した場合に、個々の投資家や金融機関としては、とりあえずリスクを回避しようとするのは当然だ。その結果、資金の出し手が減少する一方、ファンドを解約・換金しようとする動きが広がることに備えた短期資金の需要が増加する。短期資金の不足が予想されると、皆が手元の資金を多めに確保しようとするので、ますます資金不足が拡大するという悪循環に陥る。各国中央銀行の大量資金供給は、こうした短期資金の不足で金融機関が行き詰まることを防止するための措置で、とりあえず問題は回避された。9日のNY株式市場ではダウ平均が387ドルの大幅下落となったが、10日の下落幅は31ドルに縮小した。
2.リスクの過小評価が問題
金融の技術革新によってリスク分散の手段は豊富になったが、分散はされても消滅するわけではない。そもそもサブプライムローン問題の大きさがはっきりしない上に、金融商品が複雑化してリスクがどこにあるのか分かり難くなっていることが、金融機関の行動をより慎重なものにしている。時間が経てば次第に状況が明らかとなり、こうした不透明感は解消されていくだろう。
しかしこの一方で、時間の経過だけでは解決されない問題もある。それは金融市場が近年リスクを過小評価してきたのではないかということだ。米国のサブプライムローン問題では、インフレなしに米国経済の長期成長が続き、低金利と住宅価格の上昇が続くという期待が醸成されて、住宅ローンのリスクが過小評価されるようになったことが要因にある。その背景には、中国が元の上昇を抑えるために為替市場への介入を続けていることと日本の超低金利政策がもたらした、世界的な金余り現象があった。
1997年に起こったアジアの通貨危機でも指摘されたが、国際的な金融取引の拡大によって、問題が一国だけにとどまらず短時間で世界各国に飛び火するようになっている。日本の金融機関も全く無傷というわけには行かない。
3.ジレンマの中央銀行
状況次第ではFRBによる利下げも必要となろうが、インフレ懸念が残るうちは利下げの決断も容易ではないだろう。そもそも金融市場でリスクが過小評価される原因となったのは、世界的な金余り現象である。当面は、金融システムに対する不安が高まるなどして信用収縮に陥ることを回避することに主眼を置いて金融政策は運営されることになり、資金の大量供給もやむを得ない。しかし、いずれ根本的な問題は解決せねばならず、どこかで資金の吸収に回り、各種金利がそれぞれのリスクに対応したものとなるようにしなければならない。
ECB、FRBの対応はやり過ぎという声もあるが、中央銀行による迅速な対応が市場の混乱を小さくしていることは疑いない。さて来年3月には日銀正副総裁の任期がやってくるが、先の参議院選挙で与野党の勢力が逆転したことがこの人事に及ぼす影響は懸念材料である。そもそも金融市場ではいつ何がおきるか分からない中で、正副総裁3人が同時に任期を迎えるということも問題だろう。人事が混迷して金融市場をさらに混乱させるということだけは願い下げである。
(2007年08月13日「エコノミストの眼」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
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