コラム
2007年08月13日

耐震改修は地域の課題

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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耐震改修の促進には、工事に要する費用の一部を助成する補助制度などの経済的支援が効果的であるが、国土交通省の調べによると、今年4月の時点で補助制度を導入している市区町村は、戸建住宅に対しては約29%、マンションに対しては約4%に止まっており、耐震改修に対する補助制度導入の遅れが指摘されている。

こうした市区町村においては早期に制度を導入することが求められるが、ただし、補助制度の導入が直ちに耐震改修の促進に繋がるわけではないようである。既に補助制度を導入している市区町村において、制度があっても十分に活用されていない現状があるのだ。

耐震改修には1戸あたり平均200万円ほどの費用がかかるとされているが、補助があっても、この負担の重さが耐震改修を妨げているのではないかと見られており、国土交通省は倒壊防止につながる最低限の改修についても補助を認めるよう制度改正を検討するとしている。

しかし、筆者は経済的な理由以外にも、耐震改修の必要性を直視しないで、何となく先送りする住宅所有者の地震被害に対する意識の低さが根底にあり、それが耐震改修を阻害する大きな要因ではないかと考えている。また、所有者には高齢者も多いことから、耐震改修の必要性を認識していても、工事に伴う身体的負担や、耐震性に不安があっても誰に相談していいか分からないなどといったことも消極的にさせる要因になっていると思われる。つまりそうした所有者に対する意識啓発や情報提供などの取り組みが最も重要ではないかと思うのである。

災害時に公的な支援は限界があるため、防災への取り組みは平常時から、町内会程度の地域で取り組むことが有効とされている。現状で全国の既存住宅の25%が耐震性に劣るということは、例えると、近所に戸建住宅が10戸あればその内2~3戸は倒壊する可能性があるということであり、そうした危機感を地域で共有し、地域の課題として取り組むのである。そしてそのような取り組みに対し、市区町村が建築士などの地域の専門家と連携して支援していくことが望ましい。

改正耐震改修促進法では努力規定としているが、市区町村にはこうした、地域での取り組みへのきっかけとして、耐震改修促進計画の策定に取り組むことを勧めたい。計画策定を住宅所有者の意識向上に向けて、住民自らが耐震改修の必要性について考える機会にするのである。

特に、これから補助制度を導入しようとしている市区町村においては、このような計画策定の取り組みを通じて、補助制度が有効活用されることを期待したい。

(2007年08月13日「研究員の眼」)

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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

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