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1. 納税者は顧客か株主か
業務が好調なうちは組織に問題がないように見える場合でも、業績が不振になると企業の問題が明らかになることが多い。財政赤字にあえぐ日本政府は経営不振に苦しむ赤字企業の様だ。これまで隠れていた組織のさまざまな問題が噴出しており、これをどう改善するかが大きな課題となっている。
さて政府と納税者の関係は、税金を負担して公共サービスを受け取っているという関係からすれば、国や地方公共団体は会社であり納税者はその顧客に位置づけられる。しかしこの一方で、納税者は選挙によって政治家を選出し、政府の運営に当たらせている。これは、株主総会で経営者を選出し企業の経営に当たらせている株主と企業という関係に擬することもできる。
顧客と企業の関係であれば、気に入らない企業の製品は買わなければ良いし、その結果その企業が倒産しても大して困ることもない。しかし、政府の作る公共施設や提供しているサービスに不満があっても、納税者は税金を払わなくてはならない。日本を捨てて海外に移住でもしてしまえばともかく、いずれ政府の借金は納税者の負担となって肩にのしかかる。こうした点から考えれば、納税者であるわれわれは経営不振に陥ってしまった企業の株主と同じ立場にいることになる。
2. 求められる株主の視点
顧客の立場からすれば、できるだけ安い価格で良いサービスを享受したい。できる限り人件費を切り詰めてコストを下げることを企業に求めたくなる。しかし、株主、経営者の視点からは、どうだろうか?確かに企業の建て直しのためには人員の削減や人件費の削減も避けられないことがある。しかし企業の立て直しのコストを単に従業員にしわ寄せするだけでは従業員のモラールが低下してしまい、一時的には利益が出るようになってもいずれジリ貧に陥ってしまう。
企業再生の専門家の集まりである事業再生実務家協会の越純一郎常務理事は、「赤字企業は社会に迷惑をかけるだけでなく、社員も苦しめている。企業の再生には、社員のモラールをいかに高めるかということが重要であり、それは社員をも救うことである。」と言う。
株主として組織の再建のためにまず経営陣に求めるべきことは、従業員のモラールを高めることではないか。もちろん、いたずらに高い給与を与えるだけで成果が上がるとは限らないのは、普通の企業も役所も同じである。
3. 問題は賃金の差がないこと
しばしば公務員給与の高さが取り上げられるが、最も重要な問題は賃金のレベルよりも差が小さいことではないか。筆者の同級生である公立中学校の教師によれば、同時に就職した教師の給与は30年ほど経過した現在も全く同じだと言うことだ。これは極端としても、公務員の人事や給与体系には、毎年ほぼ自動的に昇格昇給して行くという年功序列の要素が強すぎる。頑張っても、頑張らなくても差がないのであれば、どうしても楽をしようという人が出てくるのは避けられない。そうした人々は、澱みとなって組織の活力を低下させていってしまう。
公務員になった人々は、そもそもは国民に奉仕しようとか、より良い社会を作りたいとか高い志を持った人たちであったはずである。その志が果たせていないのは、本人にとっても、社会にとっても不幸なことである。このような状況をそのままにしているのは、全ての人にとって良くないことだ。この状況を改善するには、良い仕事がちゃんと評価され、手を抜いた仕事は批判されるという、当たり前だが実は難しいことが必要だ。公務員の士気が高まるということは、より良いサービスが受けられるようになるということであり、顧客としての満足度の向上につながるはずでもある。
(2007年05月21日「エコノミストの眼」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
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