コラム
2007年05月14日

デフレ脱却はどれくらい重要か?

櫨(はじ) 浩一

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1. 見送られるデフレ脱却宣言

2006年度の消費者物価(総合)は、1998年度以来8年ぶりに前年比で上昇した。金融政策の判断で重視される生鮮食品を除く総合ベースでは、既に2005年度に上昇に転じており、2006年度も0.1%とわずかではあるが2年連続の上昇となっている。日銀は2006年3月に量的緩和政策を解除し、7月にはゼロ金利政策からも脱却して、短期金利の誘導水準を0.25%に引き上げた。さらに本年2月には誘導目標水準を0.5%とし、徐々に金融政策の正常化を進めている。
しかし、昨年夏をピークに原油価格が低下していることもあって、3月の消費者物価(生鮮食品を除く総合)は前年同月比でマイナス0.3%の下落となった。政府はデフレ脱却宣言を見送っており、物価上昇率がいまだほぼゼロという状態で、金利を徐々に引き上げていることに対しては、デフレからの脱却を確実なものとすべきだという批判もある。

2. デフレはなぜ問題だったのか

そもそも、デフレはなぜこれほどまでに日本経済に大きな影響を与えたのか?政府と日銀がデフレ脱却を目指した経済・金融政策にまい進していく中で、前年比1%程度のマイルドな物価下落がそれほど大きな問題であるはずがないという意見もあった。しかし、バブル崩壊後の日本経済にとって、物価の持続的な下落はやはり大きな問題であったと考える。
それは、企業が過剰債務を抱えていたからだ。物価が下落を続けるという予想の中では、資産価格が下落を続けるだけではない。個々の企業が過剰債務問題を解決しようとしてバランスシートの圧縮を図り、資産の売却をしようとすることが、更に資産価格の下落を招くという悪循環も起こった。こうした悪循環を止めるためには、物価の下落を止めてデフレからの脱却を図ることが重要だった。

3. 低下するデフレ脱却の意味

前例のない大幅な金融緩和は円安をもたらし、世界経済が好調を続けたこともあって輸出は好調を続けた。2002年初めから続く今回の景気回復は、高度成長期のいざなぎ景気をしのぐ長期のものとなった。この間に企業の債務削減は大きく進展し、過剰債務問題は日本経済全体としてみればもはや大問題ではなくなっている。
下落を続けていた地価も大都市を中心としたものであるとはいえ、反転して上昇に転じている。一時は7000円台に下落した日経平均株価も1万7000円台に上昇している。資産価格は下落から上昇に転じており、デフレからの脱却を完全なものにすることの意味は、かつてに比べてはるかに小さなものになっている。
「消費者物価の上昇率はもう少し高い方が良い」というのは確かだが、それは、「経済成長率はもう少し高い方が良い」と言うのと同じ様なものだ。デフレ脱却を最優先の課題として経済政策を行うべき時期は既に終わり、長期的な経済成長や内外の景気動向を睨んだ経済運営が行われるべき時期に来たと言える。

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