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コラム
2006年10月23日
1、所得は増えるが賃金は上がらず 日本経済がバブル崩壊の後遺症を克服し景気回復を続けていることによって、失業率の低下など労働市場の需給は改善している。しかし、賃金の上昇は予想外にゆるやかで、物価上昇率がなかなか高まらない一因になっている。 景気の回復によって、過去の不況によって職を失った人々や、働きたくとも仕事が見つからなかった人々が働けるようになり、正社員を希望してもアルバイトやパートなどの職しか見つからなかった人々が正社員として採用されることになったことは大きな改善である。雇用者は増えているので、日本全体で見れば家計所得は増加している。当面の景気を考えれば、消費の増加を支える家計所得の伸びに大きな問題があるわけではない。 とは言うものの、いざなぎ景気を超えるかという長期の景気拡大が続いている割に、家計に恩恵が及んでいないという実感のなさは、賃金上昇率が低いことも原因である。 2、売り手市場でも初任給は低迷 就職氷河期とまで言われた新卒者の就職は、今や売り手市場と化している。さすがにバブル期のような派手な新卒者の囲い込みは影を潜めたが、これまで不良債権処理に追われていた金融機関も大量の新卒者を採用するようになった。新卒者が確保できない分は、卒業後数年の「第二新卒者」の採用で補うことも行われているようで、転職者の採用も活発化している。 それにも関わらず初任給はあまり上昇していない。日本経団連の調査では、2006年3月卒の初任給は大卒の事務系で前年比0.36%の上昇に過ぎない。昨年の0.20%よりは若干上昇率が高まったものの、ほぼ横這いというべき水準である。新卒者の採用は売り手市場になったとは言うものの、学生達の反応は、賃金などの労働条件で企業を選別するというよりは、とりあえず身分の安定した正社員であれば御の字という感じのようだ。 3、賃金上昇は時間の問題 企業で働く人々が多様化し、労働組合の組織率は低下の一途を辿っている。春闘が形骸化してしまっただけでなく、労働組合は賃上げよりは雇用の確保を目指すようになった。こうした状況から、日本経済はもう賃金が上がらない構造になったと言う声も聞かれるが、それは早計ではないか。 先ほどの日本経団連の調査でも、実は水面下では初任給に上昇圧力が加わりつつあることが判る。失業率の低下に歩調を合わせて初任給凍結企業の割合は低下に転じており、2003年に91.4%に達していた初任給凍結企業は2006年は68.9%に低下している。失業率が低下すれば、この割合がさらに低下していくことになるだろう。 このまま景気回復が続いて企業の採用意欲が高い状態で、2007年以降の団塊世代の定年退職がやってくれば、新卒者の市場がさらに逼迫することは必至である。そのとき新卒者を採用できない企業が人件費抑制のために指をくわえて見ているとはとても考えられず、初任給はじわじわと上昇率を高めていくはずである。 年功序列型の賃金体系は徐々に崩れつつあり、残念ながら初任給の上昇が筆者のような50代の雇用者の賃金にまで及ぶことは期待できない。しかし、さすがに新卒者とそれ以前に就職した社員との賃金のバランスには企業も配慮をせざるを得ない。初任給が上昇すれば、若手社員の賃金はそれに引きずられて上昇し、平均賃金を押し上げることになるだろう。。
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(2006年10月23日「エコノミストの眼」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
櫨(はじ) 浩一のレポート
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