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コラム
2006年02月06日
1. 豊富な国内貯蓄が消える? 内閣府が最近公表した2004年度(2000年基準)の家計貯蓄率は、2.8%と戦後間もない1949年以来55年ぶりの低水準を記録した。1995年基準ではいったん貯蓄率の低下が止まったかに見えたが、改定値では70年半ば以降の右下がりのトレンドがまだ続いていることが明らかとなった。 貯蓄率の低下は、言うまでもなく高齢化の進展の影響が大きい。高齢化はこの先さらに進展するため、家計部門の貯蓄超過幅は縮小を続け、いずれはマイナスに転じるという可能性も高まってきた。家計部門と並んで、98年度以降大きな黒字を出してきた非金融法人部門も、今や債務の削減をがむしゃらに行う必要もなくなり、今後大幅な黒字は縮小していくだろう。10年くらいのタームで見ると、豊富な国内貯蓄は減少し、日本のISバランスは大きく変化するだろう。2020年頃には国内貯蓄よりも投資が上回り、日本の経常収支が赤字に転落する時代がやってくるのではないか。そして経常赤字といった状況になると、財政赤字の縮小が順調に進まなければ長期金利の急騰というリスクがより高まることになるのである。 米国のようにあれだけ巨額な双子の赤字があっても、長期金利は低下しているではないかという反論もあるだろう。しかし、日本の円がドルのように世界からの膨大かつ継続的な資金流入が可能となるような基軸通貨たる地位を獲得できるかは疑問であり、またグリーンスパンのような偉大な存在に恵まれて持続的に好調な経済運営が実現することを、ただただ期待するわけにもいかないだろう。
2. 今年の債券市場は調整局面に 今年はいよいよデフレ脱却が果たせそうだ。それと歩調を合わせて、金融・財政政策ともに異常な状態からノーマルな状態に向けて動き出すことになる。金融政策について言えば、それは、現在の量的金融政策から金利政策への復帰、その後の引締めを意味し、財政政策では、切り込んだ歳出削減とともにどうしても消費税引き上げの実施が必要になってこよう。 消費税の引き上げについては、今後10年くらいの間に5%程度の消費税の引き上げは避けられないとの見方が大半ではないか。 債券市場では、ブレークイーブンインフレ率(名目金利と物価連動国債の実質金利の差)は0.7%程度。いくら物価連動国債の流動性が極めて低く、市場参加者の期待が反映されていないといっても(5%を10年で割った0.5%については消費税の要因)、0.2%が物価上昇要因であるなど期待インフレ率がほぼゼロに近いとは、あまりにも低すぎる水準である。このように、株価がこれだけ楽観的になっている一方で、長期金利に対する見方は悲観的すぎると言える。
おそらく日銀の情報発信がうまく機能し、量的金融緩和後のゼロ金利期間が相当長いとの見方が強く浸透している面もあるが、金融、財政の引締めがデフレぎりぎりといった低成長を余儀なくさせるといった悲観的な見方が、根底にはあるように思われる。 財政金融政策のノーマルな状態への移行は極めて難しい。しかし、三つの過剰問題・長引いたデフレを克服し、今や日本経済は債券市場がイメージする悲観的な将来像よりも格段にいいはずだ。 市場では春先にも量的金融緩和が解除されるとの見方が強まっている。デフレ脱却が実現し、実際解除の運びとなれば債券市場の将来の見方も修正され、期待インフレ率の上昇で長期金利は上昇すると予想している。そうすることで、今年は、株価が一旦調整し、債券市場と株式市場に対する見方の違いが修正されると見ている。 |
(2006年02月06日「エコノミストの眼」)

03-3512-1837
経歴
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
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