2004年12月01日

2005・06年の税・社会保障負担の動向(I)

篠原 哲

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 これまで景気回復を牽引してきた外需に鈍化の兆しが見られるなか、今後は、民間消費がどこまで景気を支えていくことができるかが、景気回復の持続性を占う重要なポイントになるだろう。そのためにも、家計の可処分所得を抑制する要因となりうる、増税や社会保険料引上げなどの制度改正の影響を、正確に把握する必要がある。

本稿では、2005年・2006年に予定される制度改正を踏まえた税・社会保障負担の影響額をマクロベース(年度)、および一般的な勤労者世帯ベース(暦年)にわけて試算し、予定される制度改正が、家計部門に与える影響を検証する。

今回の税制改正では、定率減税の廃止が最大の焦点となったが、最終的には2006年1月より定率減税が半減されることになったため、2005年度中の負担増は定率減税については約2600億円 規模に留まるものと推定される。しかし、2005年度の家計への負担という観点からは、定率減税以外にも、配偶者特別控除の上乗せ部分の廃止(以降、一部廃止)や、高齢者向けの年金課税の強化など、各階層への増税の実施が既に決定されていることも忘れてはならない。さらには、既に10月から厚生年金保険料の引き上げが実施されていることや、2005年の4月には雇用保険料の引き上げも決定されているなど、社会保障に関する負担増も予定されている。実際に2005年度の家計負担増は全体で約1.8兆円規模に及ぶと思われ、これは年間の民間最終消費を▲0.4%ほど押し下げる規模であると考えられる。

財政の健全化や社会保障制度の安定のためには、いずれは、このような増税や保険料の引き上げを避けることはできない。しかし、問題となるのは、そのような負担増を景気に配慮しつつ、どのような規模とタイミングで実施していくかということであろう。今回の定率減税についても、3.3兆円という規模のみに話題が集中し、他の増税や保険料引き上げ等も含めた、家計への全体的影響が検討されることは、あまりなかったように思われる。このような状況では、個々の制度改正についての規模自体は小さくても、全ての負担増を合計すると景気に悪影響を与える規模となってしまう恐れがある。

したがって、今後、頻繁に実施されることが予想される税・社会保障制度改正などの実施に際しては、複数の制度の改正により生じる影響を総合して、全体として家計や経済にどの程度の影響があるかを予め評価しておく必要があるのではないか。そのためにも、経済財政諮問会議などには、経済情勢を見ながらそれぞれの制度の変更のタイミングを調整するという機能を果たすことが求められるであろう。

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篠原 哲

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