コラム
2008年06月10日

企業の保険料負担は誰のものか?

篠原 哲

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基礎年金の全額税方式化についての注目度が高まっている。仮に、基礎年金を全額税方式化すれば、保険料の未納問題や、「消えた年金記録問題」の解決に加えて、世代間の負担格差の是正が進むことなどが期待される。税方式化は、未納・記録問題により批判が集まる年金制度の信頼を回復するための、有力な選択肢となるだろう。

ただし、税方式の導入に向けては、いくつかのクリアしなければならないハードルが存在する。なかでも、約3兆円と言われる企業の保険料負担がなくなる反面、その分、家計の税負担が増加することに対しては批判的な意見が多い。企業負担が軽減される一方で、消費税が引き上げられ、雇用者のみならず、高齢者や所得のない人までも負担が増加すれば、国民から、企業優遇ではないかとの批判が高まることも予想される。

税方式を導入すれば、企業の保険料負担が減少し、家計の税負担が増加することは事実だ。しかし、「企業負担のすべてが家計に移転する」という点には、一考の余地があるのではないだろうか。消費税が引き上げられても、企業が引き上げ分を100%販売価格に転嫁できるわけではない。その意味では、企業にも一部負担が発生することになる。さらに、企業が負担している保険料は、本来であれば、賃金として雇用者に支払われる分から拠出されているとの見解もある。仮に、この考えに沿えば、企業の保険料負担の減少は、賃金上昇により家計に回るとの見方もできそうだ。

また、国際競争力強化のため、企業の法人税率の引き下げを求める声も高まっているが、保険料負担を軽減することは、場合によっては法人税の減税と同様の効果がある。これにより、企業の成長力拡大が実現すれば、家計にも雇用・所得の改善という形で恩恵が回ってくることも考えられる。

今後、税方式に向けた議論が本格化していくなかで、企業サイドも、軽減される保険料負担を、何に使うのかを示していく必要性が出てくるだろう。企業が、軽減された負担部分を雇用者に還元していく方針を示すことが、税方式の導入に向けた国民の見解を左右するひとつの鍵になりそうだ。

(2008年06月10日「研究員の眼」)

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篠原 哲

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