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コラム
2003年02月24日
1.驚きの10-12月期GDP 10-12月のGDPは前期比実質0.1%成長という当研究所の予測(2/4付けWeeklyエコノミストレター)に対して、内閣府が発表した成長率は0.5%という高いものとなった。ほとんどの予測機関がマイナス成長を予測しており、中には大幅なマイナス成長という見方もあったので、金融市場では驚きの声があがった。 民間の予測機関はそれぞれ独自のノウハウで既に発表されている諸統計などから、GDPを推計して政府が発表する経済成長率を予想する。とりわけ予測が難しいのは統計の作成方法自体が変わってしまう場合だ。日銀はこれまでの卸売物価指数が物価下落の動きを十分にとらえていないということもあって、今年の1月から様々な統計作成方法の改善を行ない、名前も企業物価指数と改めて発表している。この新しい統計が今回からGDPの推計に採用されることになったのだが、どの程度の影響があるのかは事前には予測することが不可能だった。 2.物価の下落で経済が拡大する? 実質GDPの企業設備投資の推計に用いる物価指数をこれまでの卸売物価指数から企業物価指数に変更したため、実質GDPのレベルが過去にさかのぼって上方に改定されている。例えば、7-9月期の民間企業設備投資は、12月に発表された時点では、名目で18兆3433億円、実質では21兆3792億円だった。ところが、今回のGDP統計発表時には、名目では18兆3746億円と0.2%だけ上方に修正されたに過ぎないが、実質では21兆9794億円と2.8%も上方修正された。企業物価指数の導入で、設備投資に使われる機械などの価格が今まで考えられていた以上に下落していることが明らかとなった。設備投資に使われている金額は同じでも、実際には「もっと多くの」設備投資が行なわれていた、ということなのだ。 モノの値段が上がったからといって我々の生活が豊かになるという訳ではないという道理からすれば、実質経済成長率こそが実体であって名目経済成長率はうわべの姿に過ぎない。100円のパンの値段が200円になったと言ってもそれでもっと腹が膨れるわけではない。所詮パン1個はパン1個に過ぎない。そこで物価の変動分を調整した「実質経済成長率」が登場するというわけなのだが、現実は教科書に書いてあるほど単純ではない。 先日家にあるパソコンを買い換えようと思って、量販店を覗いてみた。店頭にならんでいるパソコンは、4年ほど前に買った家のパソコンとほぼ同じ値段なのだが、もちろん性能は格段にアップしている。CPUの速度は段違い、ハードディスクの容量はケタ違いに大きいし、昔は無かったDVDだって付いている。こうした性能のアップをどうやって物価統計に織り込むかは難しい問題だが、今回の企業物価指数ではこういう点の改善も図られた。 3.日本経済の二つの姿 さて職場で使っているパソコンもそろそろ取り替えられるらしいという話しを聞いて、はたと考えてしまった。おそらくこの御時世だから、研究所が購入する新しいパソコンは現在のパソコンの値段よりも安いものだろう。すると設備投資額は減るのだが、格段に性能が向上しているので価格は大きく下落していることになり、実質では大幅な設備投資の増額ということになるはずなのだ。今年の夏ころには机の前には新しいパソコンが置かれているに違いない。もちろん性能は格段にアップしているのだが、目の前にあるパソコンは今も昔も1台。パソコンの値段は前よりも安く、会社の支出は減っているはずだ。研究所の設備投資は増えたというのが実態なのか、減ったというのが真実なのか? 当研究所が2月20日に発表した2003年度の改定経済見通しでは、2003年度の実質経済成長率は0.4%となり、2002年度の1.6%に続いて2年連続のプラス成長になると予測している。ところが、名目経済成長率はマイナス1.2%で3年連続のマイナス成長と見込んでおり、実質では日本経済は拡大しているが、名目では縮小を続けていることになる。どちらも日本経済の真実なのだが、この矛盾した二つの姿を見せる日本経済をどうすれば元の一つの姿に戻せるのか、エコノミストの頭を悩ます日々はまだまだ続きそうだ。 |
(2003年02月24日「エコノミストの眼」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
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