2002年02月25日

金融資産価格のボラティリティーの推定と予測

中窪 文男

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 ボラティリティー(Volatility)は、Volatile(変わり易い、不安定な)という形容詞の名詞形であり、その言葉が示す通り、金融資産価格などの"変動の大きさ・不安定さ"を指すことが多い。しかし、その定義は人や立場によりまちまちであり、通常は、金融資産価格(もしくは収益率)の変動リスクを意味する場合が多い。本稿では、為替相場を中心とした金融資産収益率のボラティリティーについて、様々な角度から分析を行った。
ボラティリティーには、過去の相場データから求めたヒストリカル・ボラティリティーと、将来の期待変動率を示すインプライド・ボラティリティーの大きく二つがある。前者は、過去データから求められる過去のボラティリティーであり、通常は標準偏差(ある一定期間において、相場がその平均値からどの程度乖離して推移していたかをリスクとみなす)を指すことが多い。標準偏差は計算が容易で、統計的な処理も簡単なことから、理論上のみならず実務上もポピュラーなリスク指標となっている。
計量的モデルなどを使用してボラティリティー分析を行う場合、ボラティリティー の"推定(構造分析)"と、"予測"とに目的が二分される。まず、過去のある一定期間における不確実変動に対して確率過程モデルなどを仮定し、モデルに内蔵されたパラメータ(ボラティリティー)を求めるのが"推定"である。一方、将来の不確実変動の大きさを予想するのが"予測"である。その手法として、ある一定の確率過程モデルを想定した上でそれを将来に敷衍する方法や、モデルを仮定せずに予測を行う方法などがある。"推定"においては、仮定したモデルや理論がどの程度過去の不確実変動を説明できているかが、また " 予測 " においては、理論との整合性を多少犠牲にしても、予測精度を上げることができるかに、それぞれ重点が置かれる点が対照的である。
ヒストリカル・ボラティリティーの計測方法には、終値を使った方法の他、高値・安値を使ったHL法、高値・安値・終値を使ったHLC法などがある。HLC法では、実証分析の結果ボラティリティーが負になりうる問題があるため、本論文ではこれを解決するためにツルーレンジを用いる方法を提唱した。また、高値と安値が同じであれば経路に関係なくボラティリティーが一定というHL法やHLC法の問題を解決するために、本論文では微小時間の価格変動の絶対値和による計測方法を提案した。
各種ボラティリティー推定手法の推定効率性の実証分析を行った。HL法やHLC法によるボラティリティーの推定効率は、Garman & Klass(1980)によって標準偏差の約5倍~7倍に当たることが示されている。実際、ドル円相場の実証分析の結果、HLC法の効率性が最も高くなった。
各種のヒストリカル・ボラティリティーを使用して、資産価格の翌1ヶ月間のボラティリティー予測を行った。まず、使用データの長さを変えた分析では、長期データ(過去60カ月間)よりも短期データ(過去21日間)の方が、また、同じ期間では月次データよりも日次データを使った方がその予測精度が高くなった。次に、予測手法を変えた分析では、市場の期待ボラティリティーであるインプライド・ボラティリティーや、高値・安値などのより多くのデータを使用したレンジ法、ツルーレンジ法、HL法などの予測精度が高く、標準偏差や指数平滑法、HLC法、GARCH法などの予測精度は振るわなかった。ただし、GARCH法については若干の工夫を施すことで大幅にその予測精度を上げる可能性が示唆された。さらに、対象資産を日米欧の株価インデックスや債券インデックスに拡大した分析でも同様の結果が得られた。
一般に、将来のボラティリティーがある程度の精度で予測できれば、ダイナミック・アセットアロケーションや、ポートフォリオの最適化に使用できるため、資産運用の効率性は飛躍的に高まり、様々な方面への応用が可能となろう。

(2002年02月25日「ニッセイ基礎研所報」)

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