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- 東京圏の住宅事情と政策的課題 -持家政策から新たな借家政策への転換-
1993年10月01日
<要旨>
- 我が国の住宅政策の課題を一言で表現すると、「相応な負担による一定水準の住宅」の確保ということになる。しかし、昨今の政策の重点は「相応な負担」に置かれ、本来は同等に検討されるべき「一定水準」の確保という居住水準の課題は付随的に扱われてきた。本論では、この居住水準という観点から東京圏の住宅問題と既存の住宅政策の問題点を指摘し、今後の住宅政策の方向性を提示することを目的とする。
- 住宅統計調査よると、全国の住宅総数は昭和43年に総世帯数を上回った。昭和48年にはすべての都道府県で住宅総数は総世帯数を上回り、我が国の住宅政策は、基本的に量から質の時代を迎えた。第三期住宅建設五箇年計画から最新の第六期計画では、居住水準の向上、良質なストックの形成、豊かさを実感できる往生活の実現などが政策目標として掲げられており、居住水準の向上を目指して老朽住宅の建て替えや住宅設備の整備等が進められてきた。しかし、東京圏における平均的居住水準を悪化させている狭小な住居(ウサギ小屋)の改善は遅れている。
- 東京圏における狭小な住居は借家に偏っている。核家族化や単独世帯の増加により世帯数は昭和50年代後半から急増しており、借家系住宅着工戸数がこの需要に対応するように増加している。住宅総戸数を総世帯数で割ると、東京圏では1世帯当たり1.1戸の住宅ストックとなるが、狭小で質の悪い空家ストックが多く、最低居住水準以下を除いた有効なストックは1.0戸となってしまう。東京圏の持家系住宅の平均戸当たり面積は97.2m2あるのに対して、借家系では38m2程度しかなく、借家と持家の格差は拡大する傾向にある。この格差の大きさは他の先進諸国の大都市圏には見られぬものであり、狭小な借家の改善が大きな課題である。
- 借家の狭小化の要因には、東京圏における地域的要因と、制度的な背景による全国的要因がある。両者が合わさって、東京圏の持家系と借家系住宅面積の差は一層拡大したものと考えられる。
まず、昭和50年代後半から始まる東京圏への急激な転入人口増は、主に若年層により構成され、単独もしくは2名程度の世帯を形成した。このため狭小な借家への需要が高まり、借家系住宅の着工が急増したものと考えられる。
次に、借家供給の80%以上は民間に依存しているため、採算上有利で、借家関係のトラブルが少ない単独世帯向けの賃貸住宅に供給が偏っている点があげられる。これは東京圏に限らぬ全国的な事情である。 - 一極集中が激化していた時期とは異なり、全国的な所得格差の緩和、都道府県間人口移動率の低下、人口増加率の低下などを反映して、東京圏への転入超過人口は漸減していくものと考えられ、今後の借家系住宅の需給関係は緩和していくものと予想される。これからは、住宅ストックの居住水準を改善していく好機である。社会資本整備という位置付けから借家政策を見直し、公共主導により借家供給を進める必要がある。具体的な方策として、以下の6つを提案する。
- 賃貸住宅事業支援ための財政基盤の確保。住宅金融公庫は実績からみて持家系住宅への融資を主体としている。しかし、持家(分譲を除く)は既に一定の居住水準に達していることから、持家に対する融資機能は原則的に民間金融機関へ移譲し、その結果生ずる財政余力を賃貸住宅支援に充当するような体制づくりは考えられないだろうか。
- 中核的な賃貸住宅事業実施機関の指定と財源確保。最も住宅事業に実績のある住宅・都市整備公団を東京圏における借家供給の中核実施機関に指定し、周辺自治体と連携した総合的且つ計画的な賃貸住宅供給を担当させるべきである。現在の公団の財政は、財投と分譲収入に依存しているが、賃貸住宅事業を拡大するためには、国費による財源確保が必要である。
- 国公有地の賃貸住宅事業への利用。
- 民間賃貸住宅や借家需要者への融資・補助金等支援体系の改革。民間賃貸事業者に対する優遇だけではなく、需要者に対しても家賃補助や家賃の支払いに対する税額控除を与え、より高い居住水準を目指した借家需要をつくる。
- 改正借地借家法に基づく定期借地権付き分譲住宅などの普及。持家と借家のメリットを合わせた第3の居住形態を普及させ、居住の選択肢を増やしていく。
- 高水準にある建築コストの合理的削減。
- 借家政策への転換を成功させるには、借家居住においても、持家に劣らぬ安定した居住感覚がもてるように配慮する必要がある。このためには次のような方策を含め、ハード・ソフ卜両面における政策の充実を図る必要があろう。第1に、良好且つ十分な借家ストックを形成し、ライフステージに応じて適切な借家を確保できる環場を整備することである。第2に、公共賃貸住宅という性格を活用し、借家契約上の不安を取り除くことである。第3に、周辺コミュニティー単位で緑地やアメニティーを整備し、ゆとりと自然のある住宅環境を提供していくことである。
(1993年10月01日「調査月報」)
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経歴
- 【職歴】
1975年 丸紅(株)入社
1990年 (株)ニッセイ基礎研究所入社 都市開発部(99年より社会研究部門)
2001年より現職
【加入団体等】
・日本都市計画学会(1991年‐) ・武蔵野NPOネットワーク役員
・日本不動産学会(1996年‐) ・首都圏定期借地借家件推進機構会員
・日本テレワーク学会 顧問(2001年‐)
・市民まちづくり会議・むさしの 理事長(2005年4月‐)
・日米Urban Land Institute 国際会員(1999年‐)
・米国American Real Estate Finance and Economics Association国際会員(2000年‐)
・米国National Association of Real Estate Investment Trust国際会員(1999年‐)
・英国Association of Mortgage Intermediaries準国際会員待遇(2004年‐)
・米国American Planning Association国際会員(2004年‐)
・米国Pension Real Estate Association正会員(2005年‐)
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