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2024年09月18日

日銀短観(9月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは1ポイント低下の12と予想、価格転嫁の勢いに注目

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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9月短観予測:景況感は弱含みだが投資は堅調維持、価格転嫁の勢いに注目

(非製造業の景況感もやや悪化) 
10月1日に公表される日銀短観9月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断DIが12と前回6月調査から1ポイント低下し、景況感の停滞が示されそうだ(表紙図表1)。同DIの低下は2四半期ぶりとなり、昨年後半以降、景況感が一進一退を脱していない形になる。半導体需要の回復等が支えになったものの、中国向けをはじめとする輸出低迷や急激な為替変動が景況感の重石になったと考えられる。また、大企業非製造業も、長引く物価高による消費マインドの停滞に加え、地震臨時情報・台風上陸に伴う人出減少を受けて、業況判断DIが31(前回は33)へやや低下すると予想している。
 
ちなみに、前回6月調査2では、価格転嫁の進展や堅調な設備投資需要を受けて大企業製造業の景況感が改善した一方で、物価高やコスト増・人手不足を受けて、非製造業では景況感が弱含んでいた(図表2・3)。
(図表2)前回調査までの業況判断DI/(図表3)主な業種の業況判断DI(大企業)
前回調査以降も中国経済の減速等を受けて輸出が低迷している。また、7月以降、約20円も円高ドル安が進んだことは、原材料価格の抑制に寄与する一方で輸出採算を悪化させるため、直接の影響はマチマチとなるが、為替が急変動すること自体が総じてマイナスに働くだろう。なお、自動車の認証不正問題の悪影響は緩和しているものの、完全に払拭されてはおらず、全体を牽引するには至らないだろう。このため、大企業製造業の景況感は下押しされたとみられるが、価格転嫁の進展や世界的な半導体需要の回復が一定の支えになったと見ている。

大企業非製造業では、堅調なインバウンド需要や価格転嫁の進展が支えとなったものの、長引く物価高による消費マインドの停滞や、南海トラフ地震臨時情報と台風7号・10号に伴う人出の減少という悪材料の影響が上回ったと見られる(図表4~7)。

中小企業の業況判断DIについては、製造業が前回から3ポイント低下の▲4、非製造業が2ポイント低下の10と予想(表紙図表1)。大企業同様、製造業・非製造業ともに景況感がやや悪化すると見込んでいる。
 
先行きの景況感は小動きながら、製造業と非製造業で方向感が分かれると予想(表紙図表1)。製造業では、にわかに台頭した米経済の減速懸念とさらなる円高による輸出採算悪化懸念から、先行きにかけて景況感の弱含みが示されると見ている。他方、非製造業では、引き続き物価高による消費への悪影響に対する警戒が残るものの、堅調なインバウンド需要や既往の定額減税・賃上げによる消費回復期待を受けて、景況感がやや改善するだろう。ただし、中小企業非製造業では、人手不足による制約が特に強いうえ、もともと先行きを慎重に見る傾向が強いだけに、今回も先行きにかけて悪化が示されると予想している。
(図表4)生産・輸出・消費の動向/(図表5)鉱工業生産の動向(実績・予測)
(図表6)国内延べ宿泊者数の動向/(図表7)ドル円と輸入物価の動向
 
2 回収基準日は前回6月調査が6月13日、今回9月調査が9月11日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
(設備投資計画は堅調を維持)
2024年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比9.5%増と前回6月調査(8.4%増)から小幅に上方修正されると予想(図表8~10)。上方修正幅は1.1%ポイントと例年3並みを想定している。

例年9月調査では年度計画が固まってくることで、中小企業を中心に投資額が上乗せされる傾向が強いうえ、資材価格や人件費の上昇を受けて、投資額が嵩みやすくなっている点も押し上げ材料になる。ただし、実態としても、収益回復を受けた投資余力の改善に加え、脱炭素・DX・省力化・サプライチェーンの再構築等に伴う投資需要を背景として堅調な設備投資計画が維持されると見込んでいる。

なお、今年度からの労働時間規制強化を受けて、建設業における人手不足という供給制約の強まりが懸念されるため、年度後半に向けては、計画の下振れリスクに留意が必要になる。
(図表8)GDP統計 設備投資の動向/(図表9)設備投資計画推移(全規模全産業)
(図表10)設備投資計画の予測表
 
3 直近10年間(2014~23年度)における9月調査での修正幅は平均で+1.2%ポイント
(注目ポイント:価格転嫁見通し・収益計画など)
今回の短観において特に注目されるのは「販売価格判断DI」の動向だ。同DIは物価・賃金の動向に多大な影響を及ぼす企業の価格設定スタンスを表す。前回以降、急速に円安の修正が進んだことで、輸入物価の上昇圧力は減退しつつある。そうした中でも、企業が先行きにかけて賃上げ原資の確保を目指して価格引き上げの勢いを維持する意向かが着眼点となる(図表11)。とりわけ、価格転嫁が遅れ、賃上げ余力に課題を抱えるとされる中小企業の状況が焦点となる。また、先々の賃上げを巡っては、その原資となる今年度の「収益計画」や賃上げ要因となる「人手不足感」も注目点になる。前者については、例年9月調査ではやや上方修正される傾向が強いが、輸出企業にとって、前回調査以降に進んだ円安の修正は収益の下押しに直結するうえ、海外経済の減速懸念も燻っているだけに、堅調な計画が示されるかが問われる。

今回の短観の内容が総合的に見て、「国内経済・物価が日銀の見通しに沿った経路を辿っている(オントラックにある)」と日銀が判断できるものになるかどうかが、今後の利上げの可能性や時期を占う手がかりとなる。
(図表11)仕入・販売価格DI/(図表12)企業の物価見通し(全規模)
(オントラックを裏付けるも、目先はハードル高い)
既述の通り、今回の短観はヘッドラインとなる企業の景況感が全体的に悪化すると見込まれる。ただし、悪化幅は小幅に留まるほか、堅調な設備投資計画や販売価格引き上げの継続意向、(賃金・物価の上昇要因となる)高いインフレ期待や人手不足感などがうかがえる内容になることで、日銀として、追加利上げの根拠となる「経済・物価が見通しに沿った経路を辿っている(オントラックにある)」との判断を裏付ける材料に位置付ける可能性が高い。

ただし、7月MPM後に発生した金融市場の不安定化が長引いていることに加え、10月~11月には国内で衆議院の解散・総選挙が行われる可能性があること、さらに11月初旬には米大統領選が実施されることから、事態を確認する必要もあり、10月末のMPMで追加利上げに踏み切るハードルは高い。日銀は、12月MPMでの利上げを模索しつつ、当面は市場動向や経済データ、政治情勢を見定める姿勢を維持すると見ている。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年09月18日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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