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- 「塀の中」と「塀の外」の医療-医療費削減する検査活かした診療とは
最近、刑務所の医師不足が深刻になっているそうだ。受刑者の高齢化が進み、罹患率は7割に近く、多くの人が刑務所内で何らかの治療を受けている。しかし、刑務所に勤務する医師(矯正医官)は定員の8割程度に過ぎない。自らも矯正医官を務めた精神科医の日向正光さんは、『塀の中も医師不足』*というブログの中で、刑務所内の医療について次のように述べている。
『多くの刑務所には診療所や病院に常備されている簡易検査キットや血液検査装置、医療機器の類はあまりない。(中略)刑務所で医師として働くためにはこれまでの診療に対する考え方を変えなくてはならない。(中略)刑務所での診療は自分の問診・診察と僅かな検査道具、あとはこれまでの経験に基づいた勘だけが頼りである。自分のプライマリ能力が存分に発揮できる場所であると同時に、これまでいかに検査に頼りすぎていたか自分の診療能力の低さを知らされる場所でもある』と。
日向医師が「塀の中」の医療で指摘していることは、「塀の外」の医療に対する警鐘でもあるようだ。「塀の外」では手軽に検査ができることから、過剰な検査が行われたり、検査結果を鵜呑みにした投薬の心配はないだろうか。診療における検査結果は、問診や触診と相互補完するものだと思うが、診療に検査結果を活かすも殺すも医師の診療能力次第なのだろう。
複数の疾患を抱えている高齢者の場合、血液検査の結果、対症療法的に多くの薬を服用するケースもある。それは患者をひとりの人間としてみた場合、最善の治療なのだろうか。多くの投薬における“合成の誤謬”はないのだろうか。患者にとって様々な検査が手軽に受けられるのは有難いことだが、検査結果を盲信してはならないだろう。それは、あくまでも医療の一端に過ぎないのだから。
日向医師は、多くの医師が矯正医官のように十分な臨床検査体制が整っていない医療現場において、診療能力を磨くことを勧めている。それは医師不足の「塀の中」にとっては勿論、「塀の外」の医療にも極めて重要だろう。検査に過剰に頼った診療ではなく、検査結果を適切に活かした診療が行われることは、増え続ける社会保障医療費の削減や健康保険組合の財政効率化にも資すると思われるからだ。
* 日向正光<http://www.huffingtonpost.jp/masamitsu-hinata/medical-prison_b_6709898.html>(2015年2月19日)
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土堤内 昭雄
研究・専門分野
(2015年03月10日「研究員の眼」)
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