コラム
2013年06月12日

政府債務残高が家計金融資産残高を超える日

石川 達哉

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日本銀行が“異次元金融緩和”に踏み切って以来、インフレ率と長期金利の先行きに対して様々な見方が交錯し、長期金利が一時期激しく変動することとなった。それでも、政府債務残高の名目GDP比がGIIPS諸国より大きい国の10年物国債利回りが1%に達していないのは、僥倖と言ってもよいだろう。

これまで、国内資金による国債の安定的な保有が続いてきたことは、前向きの理由であれ、後ろ向きの理由であれ、政府および政府の発行する証券に対して、国内投資家が何らかの意味での信頼を続けてきたことを示すものとも言える。結果的には、国内金融機関を通じて、家計の資金が国債保有を支えてきたのである。日本銀行による国債の大量購入が始まったことで、国内投資家の判断と行動も今後変わっていくものと思われるが、“信頼”が根底から崩れてしまうことはないであろう。

だが、資金源である家計の金融資産が、順調に増えていく状況にはないことも事実である。かつては、日本の家計貯蓄率は国際的に高いのは何故なのかを明らかにしようとして、激しい論争が起きた時代さえもあったのに、今や、日本の家計貯蓄率はマイナスに転落する一歩手前のレベルにまで下がっている1 。その結果、家計が保有する金融資産も伸び悩み、2001年度以降の残高は1400兆円台から1500兆円台の範囲で変動するにとどまっている。

一方、政府債務の方は、過去10年間においては、毎年平均30兆円のペースで増加を続け、2012年末には残高が1112兆円、その名目GDP比は234%(家計金融資産残高比では70%)に達している。過去3年間に限れば、政府債務残高の増加は年間平均50兆円であったから、そのペースが続けば、8年後には家計金融資産残高に並んでしまうことになる。

もちろん、消費税率が10%にまで引き上げられれば、政府の歳入は約13兆円増加する。その大半が、社会保障関連支出の自然増や給付改善、消費税率引き上げを見込んで先行的に発行される年金特例公債の償還財源などに充当される見込みであり、財政収支改善に結実する金額は決して多くはない。それでも、財政赤字が現状より拡大することはないだろう。

また、「国と地方を合わせたプライマリー・バランス赤字(GDP比)を2015年度までに半減し、2020年度までに黒字化する」という国際公約もあって、14日に閣議決定される予定の「骨太の方針」の中で財政赤字縮減のための中期財政計画が示される見込みである。

しかし、財政収支が黒字化しない限り、政府債務残高は確実に増えていく。政府債務残高の家計金融資産残高に対する割合を、OECD諸国の最新データを用いて国際比較すると、日本の70%という水準は、33カ国中で6番目に高いものである。最高値はギリシャの93%であり、日本より上位に位置する国は、他には、旧東欧諸国と、2008年の金融危機時に経営破綻した銀行を国有化したアイスランドがあるのみである。
OECD諸国における政府債務残高の家計資産残高に対する割合
家計の金融資産との対比で見たときに、数字がここまで悪化していることには、愕然とせざるを得ない。というのも、1995年時点まで遡ると2、日本の数値は36%であり、それより低い国は、米国、英国など4カ国のみにとどまっていたからである。貯蓄大国日本のイメージは、ストックベースでも、過去のものとなってしまっている。

潤沢な国内資金による国債の安定的保有がいつまでも続くとは限らないことは、もはや、多くの人に認識されているところであろう。しかし、国債の安定保有を支える構造は、すでに内部から緩やかに崩れつつある。現実は、そこまで進んでいる。“その日”へのカウントダウンは、始まっているのだ。

だが、カウンターを止めることは可能である。プライマリー・バランスだけでなく、財政収支を黒字化すればよいだけのことである。道は険しいが、2020年代の前半までにそれを実現できるよう、歳入・歳出のあり方を再度見直すことを期待したい。
 
1 最新の2011年度実績値は1.3%。最低水準は2007年度の0.3%。
2 ただし、比較可能なデータのある国は24カ国である。
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石川 達哉

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【政府債務残高が家計金融資産残高を超える日】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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