コラム
2012年08月31日

赤字地方債にも波及する赤字国債の危うさ

石川 達哉

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昨年は、赤字国債発行法案の成立が8月末にまでずれ込んだが、今年は10月召集見込みの臨時国会へと先送りされることが濃厚である。国の2012年度予算成立後、38兆円もの発行予定額がすでに5か月以上も宙に浮いたまままの状態にあるが、直接の理由は、予算案とは異なって衆院優越規定が適用されない赤字国債発行法案が、衆参ねじれ国会の下で与野党攻防の格好の標的とされたということに尽きるだろう。
   日本の財政法は、第4条但し書きの規定で、建設国債の発行は認めているが、赤字国債は認めていない。それゆえ、赤字国債を前提とした予算を執行するためには「今年に限って、特例的に赤字国債の発行を認める」という特例法の成立を必要とすることになり、1年限り有効な特例法、いわゆる赤字国債発行法が、ほぼ毎年のように繰り返し制定されてきた。財政法上は認められていないものを前提に財政運営を行うということが恒常的に続いているのは、どう考えても、尋常ではない。残念なのは、こうした異常さの根幹にある歳入歳出構造を抜本的に正そうという議論が一向に盛り上がらないことである。消費税増税法案は成立したが、消費税率5%引き上げで期待できる今後の税収増はせいぜい12、13兆円である。その全額を、予定されている社会保障充実の財源としてではなく、財政赤字の穴埋めに用いた場合でも、赤字解消には程遠い。そうした状況にもかかわらずである。

国の不安定な財政構造、歳入不足は、当然ながら、地方公共団体にも波及している。
   国と地方が大きく違うのは、特例法が成立さえすれば、潜在的な歳入不足を補填するための赤字国債を歳出額に合わせて発行できる国とは異なって、地方公共団体は自ら望んだ額の赤字地方債を発行するというようなことはできない点である。地方自治体に許される赤字地方債の発行は、国が作ったルールの下で算定された額に限られる。国に建設国債と赤字国債とがあるように、地方にも建設地方債と赤字地方債とがあるが、赤字地方債の発行は厳格に管理され、このように、本来は発行額には歯止めがかかるはずの制度になっている。
   ところが、「国が作ったルールの下で算定された額」が趨勢的に増加し、とうとう赤字地方債の発行額が建設地方債を上回り、全地方債発行額13兆円の半分以上を赤字地方債が占めてしまったのである。赤字地方債にも幾つかの種類があるが、地方交付税に替わる役割を担って発行される「臨時財政対策債」だけで8兆円にも及んでいる。赤字国債の発行額が建設国債の発行額よりも大きいことは今やニュースにもならないかもしれないが、国債よりも厳格に「特例」的にしか発行が認められてこなかった赤字地方債が建設地方債の額を上回るのは、実はきわめてショッキングな出来事である。

「臨時財政対策債」への依存度がここまで高まったのは、結局のところ、国も地方も大きな税収不足にあるからである。必要な地方行財政を遂行するうえで不足する財源を賄うために、国から地方へと現金で交付されるのが、地方交付税の本来の性格である。しかし、必要財源の全額を地方交付税として交付するだけの資金は国にもない。地方公共団体の責任において地方債発行によって資金調達するかわり、後年度の地方交付税を通じて、国が実質的に元利償還金の全額を補填するのが、「臨時財政対策債」の基本的な仕組みである。
   問題なのは、新たな地方財政運営に伴って不足する財源を賄うだけでなく、過去に発行された「臨時財政対策債」の元利償還金を上乗せする形で、新たに発行される「臨時財政対策債」の発行可能額が決められていることである。当然ながら、税収が増えない限り、発行額は自ずと膨張していく。
   こうした構造を伴う「臨時財政対策債」は、すでに残高ベースにおいても、全地方債142兆円の約四分の一に当たる31兆円あまりを占めている。国家財政の悪化は、もはや、国債だけの問題にとどまらないのだ。

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