コラム
2008年07月25日

サブプライム問題と証券化商品の関係~関係あるのか、ないのか?~

千田 英明

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サブプライム問題の影響で、証券化商品には厳しい目が向けられている。2006年度には過去最高の9.8兆円となった国内の証券化商品の発行は、2007年度には6.8兆円と減少に転じ(「証券化市場の動向調査」日本証券業協会、全国銀行協会)、2008年度は更に減少する見込みである。証券化商品の中で最も大きなウエイトを占めている住宅ローン証券化商品(以下、RMBS(Residential Mortgage Backed Securities)という)の減少が主な原因の一つである。

証券化商品とは、住宅ローン・不動産投資等から発生するキャッシュ・フローを担保に証券を発行する手法である。投資家は住宅ローンの回収不能リスクや、不動産の価格下落リスク等を負担するため、裏付資産となる住宅ローン等の中身や証券化の仕組みにより、そのリスク特性は大きく異なる。日本で最も多く発行されている証券化商品である住宅金融支援機構RMBSは、裏付資産とする住宅ローン債務者の平均年収が概ね600~700万円であり、米国で問題となった低所得者向けローンとは程遠いものである。また、住宅ローンの元本と利息の両方を返済していくタイプがほとんどで、サブプライムローンのように利息のみを返済し、何年も元本が減少しないタイプではない。更に、一部の住宅ローンが回収できなくなったとしても、担保となる全体の住宅ローンは、証券の元本を大幅に上回っており(超過担保の設定)、投資家がすぐに損失を被るようなことはない。このように、日本で最も多く発行されている証券化商品には、何重もの安全策が組み込んである。

ただし、RMBSについては、証券が返済されないリスク(信用リスク)だけでなく、価格変動リスク(市場リスク)も考えなくてはならない。通常の債券は元本、クーポン、期間の3つが決まってはじめて、利回りや価格を計算できる。ところが、RMBSはこの3つのうち、期間だけが予め決まっていない。期間は、住宅ローンの返済期間であるが、住宅ローン債務者は、いつでも自由に繰上弁済する権利を持つために未定である。繰上弁済率は、「契約期間」と「金利変動」により大きく変動するが、これは、繰上弁済する理由が、(1)貯まってきた余裕資金(契約期間が長いほど増加)、(2)市場金利の低下による他社ローンへの借り換え(金利が低下するほど増加)、のためである。この他、ボーナス期(7月、1月)や引越しシーズン(3月)には、繰上弁済が増加する季節要因も見られる。そこで、最大の価格変動要因である金利の影響については、通常、債券は金利が低下すると価格が上昇するが、その性質は期間が短いほど弱くなる。よって、金利の低下(繰上弁済率の増加)は、RMBSの期間を短くし、想定ほど価格が上昇しない。逆に金利の上昇(繰上弁済率の減少)は、RMBSの期間を長くし、想定よりも価格が大きく下落する。

このように、証券化商品には裏付資産の性質や、通常の債券と異なる価格変動特性等から、様々なリスクが存在する。特に、裏付資産の中にはサブプライムローンのようにリスクの高いものが含まれてないか、厳しく検証する必要がある。しかし、証券化商品の中には、何重もの安全策が組み込んであり、リスクの非常に少ない商品も多い。よって、証券化商品というだけでサブプライムローンを連想し、危険なものと捉えることなく、その中身をしっかりと分析して投資していくことが必要ではないだろうか。
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千田 英明

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