コラム
2012年11月28日

悲観論者は楽観的 - リーダーに求められる資質

櫨(はじ) 浩一

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1.想定外の事態

2005年の新語・流行語大賞の年間大賞には、「想定内(外)」という言葉が選ばれている。堀江貴文ライブドア社長(当時)が、企業買収交渉の状況急変に対して、マスコミから発せられる矢継ぎ早の質問に「こんなことが起こるかも知れないということは、はじめから分かっていましたよ!」とばかりに、連発したセリフが流行の発端だった。
   さて、年末年始には新年の経済見通しを尋ねられる機会が増える。とりわけ新年会などの場で経済について厳しいお話をすると、後から話が悲観的過ぎるというお叱りを受けることも少なくない。エコノミストが暗い話ばかりするから、皆が悲観的になってしまい、実際の景気が悪くなるのだとか、もっと明るい予測を発表すれば、世の中が明るくなって、実際に景気も良くなるはずだという指摘を受けるは度々である。
   そうした批判は「想定内」の話であり、これから最も起こりそうな経済状況を予想するのが、エコノミストの仕事だと思っている。


2.悲観と楽観

当研究所の経済予測はマクロ計量モデルで作成しているが、実績数値をコンピュータに入れれば自動的に答えが出てくるというようなものではない。
   モデルを使った予測では「犬が西を向き尾も西を向く」というような矛盾した予測は作ろうとしてもできない。しかし、どんな予測でも作れるわけではないというだけで、将来の前提条件の置き方で出てくる答えは大きく変化する。極論すれば、非常に楽観的な前提条件を置けば出てくる結果は明るいものになり、悲観的な条件を仮定すれば暗い結果が出てくるわけで、結論を変えたければ前提とする条件を変えれば良いということだ。
   そこで、明るい話をするために楽観的な前提だけを考えたがるようになる。「こういうことが起こったらどうするのか」、と質問すると、「そのようなことにならないように努力する」という判じ物のような答えがかえってきたりもする。自分が考えたくない結論が出てこないように、予測で想定する前提条件の方を捻じ曲げて操作したくなるのだ。


3.リーダーに求められる資質

長年経済予測の作業に携わって分かったのは、将来について楽観的な予想をする人ほど実は悲観的なのだということだ。こういうことが起こったらどうするのかと尋ねると、得てして楽観論を唱えていた人ほど、そんなことになったらもうおしまいだという反応をする。逆に悲観的な想定を考える人ほど、どんなことがあっても大変ではあるが何とかなると考えているようだ。だから、こんなことが起こったらどうしようかという思案をあれこれするのだ。
   リーダーは、どんな危機に直面しても人々を鼓舞し、難局を乗り切ろうとすることが求められる。どんな局面でも、必ずなんとかなると考える楽観論者であることが必要だ。しかし、その一方で想定される困難な状況に対して予めどう対処するかを冷静に考えておくことも同じくらい重要で、考えたくなくなるような厳しい状況をも想像できる悲観論者であることも大切なリーダーの資質だろう。

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