コラム
2018年07月03日

幸福度を高めるシェア経済-節約やプチ収入だけじゃない、誰かの役に立って嬉しい気持ち

生活研究部 主任研究員   久我 尚子

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シェアリングサービスと消費市場という話題になると、とかく日本では、既存企業の利益を奪う、市場がシュリンクするというネガティブな文脈で語られがちだ。日本では、シェアリングサービスだけでなく全般的に既存企業の利益の保護が優先され、新しい技術や価値観のもとで展開されるビジネスに不寛容な傾向がある。その結果、インターネットを使ったビジネスでも見られたように、他国に遅れを取り、消費者も新しい技術の恩恵を受けにくいという負のスパイラルに陥りがちだ。
 
シェアリングサービスでは、当初より、事業者が提供するクルマや自転車などのモノのシェアが目立っていた。これらはレンタルサービスと似通っているために、消費者が買わなくなることで既存の製造業の利益を奪うという印象が強いようだ。そして、消費者がなぜ買わずにシェアを利用するかと言えば、長らく続いた景気低迷の中では「節約」という言葉で片付けられてきた。
 
しかし、事業者提供型のシェアリングサービスだけでなく、ITの進化が個人にも浸透することで、個人と個人をつなぐプラットフォームが整ってきた。その結果、個人が所有するモノを有効利用する、遊休資産を有効活用する、という価値観の土壌が育ってきた。

そういったプラットフォームでは、使っていないクルマや部屋、バッグ、もう使わなくなったおもちゃなどの所有者が、それらを求めるほかの誰かに提供することで、モノは有効利用され、所有者(提供者)は、ちょっとした収入を得ることができる。
 
ちょっとした収入が得られるという点で「節約」に通じる部分もあるだろう。一方で、例えば、フリマアプリにモノを出品するには案外手間も時間もかかるのだ。まず、モノの写真を撮ってコメントを付けてアップする、希望者とやりとりをする、細部を確認したいなどの希望があれば写真を取り直してアップする、売買が成立したら包装する、宅配業者へ持っていく、といった細々した工程がある。

忙しい現代人にとっては、ちょっとした収入だけではなく「誰かの役に立って嬉しい」という気持ちもトリガーになっているのではないだろうか。

カーシェアリングサービスのAnyca(エニカ)は、一般個人が所有するクルマを希望者に貸し出すサービスだ。貸し出す側のコメントを見ることができるのだが、「使ってもらえてうれしい」「ますます自分のクルマに愛着がわいた」というものが並ぶ。また、「いつも使っていないので掃除するきっかけになる」というものもあった。さらに、高級外車やテスラ、自動運転機能付きなど付加価値の高いクルマでは「楽しんでもらえて嬉しい」「ぜひまた体験してもらいたい」というものもある。

これらを見ると、ほかの誰かとつながってモノを共有することによって、役に立てて嬉しい気持ち、モノをあらためて大切にする気持ち、モノを通じた連帯感などが感じられる。当然、ひどい使い方をされればネガティブな感情が湧き上がるが、こういった個人をつなぐサービスでは往々にして提供者にも利用者にも評価がつけられるため、迷惑行為に対する一定のセーフティガードが機能している。多くの良心的な個人間のモノの共有は、幸福度を高める体験につながるのではないだろうか。
 
考えてみれば、私たちの生活は非効率な部分だらけだ。先のAnycaのホームページによれば、「自家用車の平均稼働率は5%程度で、年間たったの20日しか使われていない」。クルマだけでなく、私達のクローゼットには使っていないバッグや、めったに着ない洋服が眠っている。家庭によっては使っていない部屋や駐車スペースもあるだろう。生活面でも、例えば、子どもの習い事の送迎を考えると、近所から何人も同じ塾などへ通っていても、それぞれの親が送迎していることも多い。小学生ともなれば、1人の親で3~4人の子どもを引率できる。近所に住む顔見知りの手の空いている親がそれを担ってくれたら1、時間の面でも労力の面でも効率的だ。

個人が眠らせているモノやスペース、スキルなどを、良心的な仲間と共有できたら、それは私たちの生活を豊かにするのではないだろうか。
 
一方で「買えないからシェアするのではないか」という意見もある。もちろん、そのような面もあるだろう。しかし、仮に、たくさんのお金があって、たくさんのモノを買うことができても、その体験からは、誰かの役に立つ嬉しい気持ちや連帯感は生まれない。モノがあふれる成熟した消費社会では、たくさん持つことの価値よりも、モノでつながることの価値が高まっているのかもしれない。
 
シェアによるモノの有効利用は効率化につながる。よって、消費額などのこれまでの軸で見れば、既存の消費市場はシュリンクする可能性もある。しかし、消費者は正直だ。既に存在するモノよりも使いやすい、生活も気持ちも豊かになる、そんなサービスが登場したら、そちらへうつるのは当然だ。

市場は既存企業を規制で守るのではなく、また、既存企業は規制を盾にするのではなく、シェアリングエコノミーと共存し、それぞれに優れたモノやサービスの提供を目指す社会が、私達の生活を真に豊かにするのではないだろうか。
 
1 「子育てシェア」のAsMama(アズママ)の構想
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生活研究部   主任研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、保険・金融マーケティング

(2018年07月03日「研究員の眼」)

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