2018年06月07日

中国の公的医療保険制度について(2018)-老いる中国、14億人の医療保険制度はどうなっているのか。

基礎研REPORT(冊子版)6月号

保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   片山 ゆき

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1―中国の公的医療保険制度とは?

中国の公的医療保険制度は、2020年までに「皆保険」の実現を目指している。都市部の国有企業を対象とした医療保険が1951年に導入されて以来、中国はおよそ70年をかけて制度を整えることになる。

「皆保険」の定義も、全ての国民が何らかの医療保険に加入できる制度を構築することは日本と同義であるが、中国の場合は加入には強制と任意が並存している点が大きな特徴である。

中国の公的医療保険制度は、本人の戸籍(都市/農村)や、就業の有無によって、大 きく2つに分類される。都市で働く会社員などの被用者は「都市職工基本医療保険」 に加入(強制)し、都市の非就労者や農村住民は「都市・農村住民基本医療保険」に 加入(任意)する[図表1]。

一方、保険料の徴収、財政(基金)の管理、給付内容の決定や改定といった実質的な 制度の運営は各地域で分立して行い、それぞれ設置された社会保険管理機構が担う。以下では、北京市の都市職工基本医療保険を例に、(1)保険料負担、(2)制度構造、(3)入院・通院給付に分けて解説する。ただし、地域毎に制度内容が異なる点に留意が必要である。
[図表1]中国の公的医療保険制度の体系

2―都市職工基本医療保険制度 ー北京市を例に

1|保険料負担
都市職工基本医療保険の対象者は、都市で働く会社員、自営業者、公務員・外郭 団体職員等である。

保険料は労使折半ではなく、企業の負担が重い設定となっている。北京市の在職者 を例にみると、雇用主は、基本医療保険料の9%と、高額医療費用互助保険料の1% で合計10%を負担する[図表2]。従業員は、基本医療保険料の2%と、高額医療費用互助保険料として3元負担する。これらの保険料は、北京市の「基本医療保険基金」、「高額医療費用互助保険基金」と、本人の「医療保険専用の個人口座」で積み立てられる。

雇用主が拠出した基本医療保険料9%のうち、従業員の年齢に応じて決められた割合0.8~2%と、従業員が拠出した2%が医療専用の個人口座に積み立てられる。雇用主が拠出した残りの基本医療保険料の7~8.2%は基本医療保険基金に積み立てられる。雇用主が拠出した高額医療費用互助保険料の1%と、従業員が拠出した3元が高 額医療費用互助保険基金に積み立てられる。
[図表2]北京市における都市職工基本医療保険の保険料負担(在職者の場合)
[図表3]北京市の都市職工基本医療保険の給付構造(在職者の場合) 2|制度構造
制度の構造は2階建てとなっている。北京市の在職者の場合、1階部分の基本医療保険からは一定額まで基礎的な給付が受けられる。これを上回る高額な医療費については、2階部分の高額医療費用互助保険から給付が受けられる[図表3]。

3|入院・通院給付
給付は、基本的に、入院、通院(一般的な通院外来、市が指定した特殊疾病・慢性病)を対象としている。給付は日本とは異なり、受診した医療機関の規模やランク、医療費の多寡などに基づいて各地域が設定している。北京市の在職者の場合、入院費はまず、年間1,300元までが全額自己負担となる[図表4]。1,300元を超えた場合、10万元までは病院のランク、入院費の多寡に応じて、3~15%が自己負担となっている。
[図表4]北京市における都市職工基本医療保険の入院・特殊疾病病院のランク、医療費用別の自己負担割合(在職者の場合) また、入院費が10万元を超えた場合、30万元までは自己負担が一律15%となっている。なお、30万元を超える入院費は全額自己負担となる。例えば、3級病院(日本の大学病院に相当)に入院した場合、医療費1,300元超から3万元の部分については自己負担割合が15%、3万元超~4万元の部分については自己負担割合が10%となっており、医療費が高額になるにつれ、自己負担割合は軽減されている。一方、一つランクが下の2級病院の場合は、同じ医療費でも自己負担割合は13%、8%と、3級病院よりも軽減されていることがわかる。

これは、大規模病院への患者の集中を避けるための策である。また、政府が国民 に保障する医療サービスは基本的なものに留め、よりレベルの高い医療サービスを受けるには、それに見合った対価を受益者自身が支払うべきという考え方がある。
[図表5]北京市における都市職工基本医療保険の通院(一般外来)における病院ランク、医療費用別の自己負担割合(在職者の場合) 一方、通院(一般外来)で治療した場合、1,800元までは全額自己負担でる。各居住地域に設置された小規模な医療機関である社区衛生サービスセンター(1級病院に相当)での自己負担割合は10%であるが、自身が選択した1~3級の医療機関 で受診する場合は30%となっている[図表5]。なお、通院についても大規模病院へ の集中を避けるため、最初に受診する医療機関は、社区衛生サービスセンターにするよう求めている。

また、北京市は特殊疾病の通院治療の対象として、(1)悪性腫瘍、(2)人工透析(腎不全)、(3)血友病、(4)再生不良性貧血、(5)腎臓、肝臓、心臓、肺移植後の拒絶反応の投薬治療、(6)多発性硬化症、(7)加齢黄斑変性症(注射治療)の7種を指定している。これらの治療は医療費の負担が重いことから、通院(一般外来)を対象とした自己負担ではなく、より負担が軽い入院の自己負担割合が適用されている。ただし、特殊疾病の給付を受けるには申請が必要である。

なお、一般外来の薬代は、個人口座(医療保険カード)から支払うこともできる。

給付対象者は、被保険者本人が対象となり、日本のような被保険者に扶養されている家族への保険給付はないため、扶養家族はそれぞれ都市・農村住民基本医療保険に加入し、給付を受けることになる。

制度は各市で運営されているため、基本的に管轄の市以外で受診した場合は、全額 自己負担となる。ただし、かかった医療費が過重なものとならないように、管轄地域で、一部の医療費の償還も可能となっている。

受診する医療機関についても、通常使用する病院を予め4ヶ所指定する必要がある。また、4ヶ所以外に、A類病院(北京市が指定した大規模な総合病院)、漢方などの専門病院については、指定をしなくても利用が可能である。但し、上掲以外の病院で受診した場合は医療給付の対象とならない。

3―日本とは大きく異なる制度設計

中国では、日本の公的医療保険の特徴の1つである、患者が望めば、いつでも、誰でも、どこの医療機関でも医療を受けられる「フリーアクセス」は存在しない。加えて、制度の運営が各地域で分立していることから、保険料負担、給付限度額、入院・通院に際しての自己負担割合の設定は各地域で全く異なっている。

中国の医療保険制度を理解する上では、これらの内容を地域単位で確認する必要があり、この点が制度の分かりにくさを助長していると考えられる。「中国の医療保険制度は整備されていない」と考えられる向きも強いが、給付に際しての限度額の設定、免責制の導入など、負担に見合った給付のあり方を実現しようとしており、医療財政といった視点からもより現実的な制度設計になっているとも考えられよう。
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保険研究部   准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の保険・年金・社会保障制度

(2018年06月07日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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