2017年10月10日

【9月米雇用統計】雇用者数は前月比3.3万人減。ハリケーンの影響により、市場予想を大幅に下回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用増加数は市場予想を大幅に下回り、84ヵ月ぶりに減少

10月6日、米国労働省(BLS)は9月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で▲3.3万人の減少1(前月改定値:+16.9万人)と、市場予想の+8.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に下回り、10年9月以来84ヵ月ぶりに減少に転じた(後掲図表2参照)。

失業率は4.2%(前月:4.4%、市場予想:4.4%)と、こちらは前月、市場予想を下回って改善し、01年2月以来の水準となった(後掲図表6参照)。一方、労働参加率1は63.1%(前月:62.9%、市場予想:62.9%)と、こちらも前月および市場予想を上回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:ハリケーンの影響で雇用者数は減少も、労働市場の基調は強い

9月の非農業部門雇用者数は前月から減少したものの、ハリケーンの影響が大きいとみられる。実際、飲食業が前月比▲10.5万人と過去1年間の月間平均増加数である+2.4万人から大幅に減少した。事業所調査では、職が有っても調査週に給与支払いが無い場合には、雇用者数にカウントされない。BLSは、これらの業種では勤務出来なかった場合に給与が支払われないことが多いため、ハリケーン「イルマ」が9月10日の調査週に、フロリダ州に上陸した影響を受けた可能性を指摘した。また、BLSは9月統計で職があるのに仕事出来なかった人数が150万人と、過去20年間で最高水準であったとしているため、事業所調査ではハリケーンの影響が大きかったようだ。

一方、家計調査もハリケーンの影響を受けるものの、こちらは事業所調査と異なり、調査週の給与支給の有無は関係ないため、事業所調査より影響が軽微であったとみられる。実際、失業率は、労働参加率の改善を伴って低下しており、家計調査は労働需給のタイト化が持続していることを示した。

また、9月の時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.5%(前月:+0.2%、市場予想:+0.3%)と、+0.1%から上方修正された前月、および市場予想を上回った。さらに、前年同月比も+2.9%(前月:+2.7%、市場予想:+2.6%)と、+2.5%から上方修正された前月、および市場予想を上回り、16年12月以来の伸びとなった(図表1)。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 もっとも、時間当たり賃金もハリケーンの影響を受けているため、来月以降も堅調を維持するのか注意する必要がある。

このようにみると、9月の結果は、雇用者数は減少に転じたものの、ハリケーンに伴う一時的な要因が大きいとみられ、来月以降は再び雇用増加に転じる可能性が高い。さらに、家計調査は労働需給のタイト化が続いていることを示しており、労働市場の基調は強いと判断できる。

FRBは、9月のFOMC会合でハリケーンの影響は短期的との見方を示し、年内の追加利上げ見通しを維持したことから、9月の雇用統計が年内利上げ方針に与える影響は限定的だろう。

3.事業所調査の詳細:飲食業が大幅に減少

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門が前月比▲4.9万人(前月:+9.8万人)と、09年11月以来の減少に転じた(図表2)。

サービス部門では、運輸・倉庫が前月比+2.2万人(前月:+0.8万人)、医療サービスが+2.3万人(前月比:+2.2万人)と前月から伸びが加速したものの、専門・ビジネスサービスで+1.3万人(前月:+4.3万人)と前月から伸びが鈍化した。さらに、娯楽・宿泊サービスが▲11.1万人(前月:横這い)と大幅な減少に転じた。とくに、飲食業が▲10.5万人(前月:+0.6万人)と大きく落ち込んだことが大きい。

一方、財生産部門は前月比+0.9万人(前月:+6.6万人)と、前月から伸びが鈍化した。建設業が+0.8万人(前月:+1.9万人)となったほか、製造業が▲0.1万人(前月:+4.1万人)と2ヵ月ぶりにマイナスに転じた。

政府部門は、前月比+0.7万人(前月:+0.5万人)と、こちらは小幅ながら前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が前月比横這い(前月:▲0.2万人)と前月から増加した一方、州・地方政府が+0.7万人(前月:+0.7万人)と、前月並みの水準を維持した。
前月(8月)と前々月(7月)の雇用増(改定値)は、前月が+16.9万人(改定前:+15.6万人)と+1.3万人上方修正された一方、前々月が+13.8万人(改定前:+18.9万人)とこちらは▲5.1万人の大幅な下方修正となった。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲3.8万人の下方修正となった(図表3)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)
なお、BLSの公表に先立って10月4日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+13.5万人(前月改定値:+22.8万人、市場予想:+13.5万人)と、+23.7万人から下方修正された前月からさらに伸びが鈍化、市場予想には一致した。この結果、ADP統計も伸びの鈍化がみられたものの、雇用統計に比べて小幅な鈍化に留まった。
 
9月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が26.55ドル(前月:26.43ドル)となり、前月から+12セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.4時間)とこちらは前月から横這いとなった。その結果、週当たり賃金は913.32ドル(前月:909.19ドル)と前月から増加した(図表4)。

4.家計調査の詳細:就業者数の大幅な増加を背景に、労働力人口は増加

家計調査のうち、9月の労働力人口は前月対比で+57.5万人(前月:+7.7万人)と、17年1月(+58.4万人)に次ぐ伸びとなった。内訳を見ると、失業者数が▲33.1万人(前月:+15.1万人)と前月から大幅な減少に転じた一方、就業者数が+90.6万人(前月:▲7.4万人)と13年11月(+95.9万人)に次ぐ水準に増加したことが大きい。非労働力人口は▲36.8万人(前月:+12.8万人)と、こちらは大幅な減少となった。

この結果、労働参加率は63.1%(前月:62.9%)と14年3月以来の水準に上昇した(図表5)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
また、失業率は4.2%(前月:4.4%)と01年2月以来の水準に低下した。家計調査も事業所調査ほどではないにしてもハリケーンの影響を受けているため、来月以降の数値が注目される(図表6)。
 
次に、9月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、173.3万人(前月:174.0万人)となり、前月対比では▲0.7万人(前月:▲4.5万人)と、2ヵ月連続の減少となった。もっとも、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは25.5%(前月:24.7%)と、こちらは小幅に上昇した。平均失業期間も26.8週(前月:24.4週)とこちらも前週から増加した(図表7)。
 
最後に、周辺労働力人口(156.9万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(512.2万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、9月は8.3%(前月:8.6%)と、前月から▲0.3%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は4.1%ポイント(前月:4.2%ポイント)と、こちらも前月から▲0.1%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2017年10月10日「経済・金融フラッシュ」)

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