2017年09月05日

年金改革ウォッチ 2017年9月号~ポイント解説:内閣府の中期経済見通し

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

先月の資金運用部会では、今年10月1日に施行される年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)改革に伴う政省令事項について報告があり、了承されました。また、GPIFの平成28年度業務実績評価に向けて、ヒアリングや意見交換が行われました。
 
○社会保障審議会 資金運用部会
8月1日(第4回)  GPIF改革の施行(10月1日)に伴う政省令等事項、GPIFの平成28年度業務実績評価
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000173447.html  (配布資料)
 
○政策評価に関する有識者会議 福祉・年金WG
8月22日(第6回)  平成29年度に実施する政策評価
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000175825.html  (配布資料)
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会 情報セキュリティ・システム専門委員会
8月30日(第4回)  年金業務のシステムに関する情報セキュリティ対策(現地視察)
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000174756.html  (開催案内)
 

2 ―― ポイント解説:内閣府の中期経済見通し

2 ―― ポイント解説:内閣府の中期経済見通し

2019年に作成される公的年金財政の見通し(財政検証)にむけて、先月号では新しい将来推計人口を確認しました。今月号では、経済前提の基礎となる内閣府の中期経済見通しを確認します。
1|概要と公的年金財政の見通しでの役割:当面約10年間の経済前提に利用

内閣府の中期経済見通し(正式には「中長期の経済財政に関する試算」)は、経済財政諮問会議の参考資料として作られています。見通しの値は、経済理論に基づく複数の方程式から構成された、いわゆる計量経済モデルから試算されたもので、予め主観的に設定されたものではありません。また、試算の内容は相当の幅を持って理解されるべき、とされています。

公的年金財政の見通しの経済前提(物価上昇率、賃金上昇率、運用利回り)は、当面の約10年間分とその後の約90年間分とに大きく分かれ、前者の設定には内閣府の中期経済見通しを利用しています。
2|最新の見通し:2014年1月の見通しと比べ、経済再生ケースは近い水準、足下並みケースは低めに

以下では、今年7月に公表された最新の中期経済見通しを、2014年1月の見通し(2014年に行われた前回の公的年金財政の見通しで使われたもの)や実績値と比較しながら、確認します。
図表1 消費者物価上昇率の推移 (1) 消費者物価上昇率*1
2014年1月の見通しとは消費税率が10%に引き上げられる時期の設定が異なりますが、2021年度以降はほぼ同じ水準になると見込まれています。
図表2 1人当たり名目GNI成長率の推移 (2) 1人当たり名目GNI(国民総所得)成長率
公的年金財政の見通しでは賃金上昇率が前提として使われますが、公表されている内閣府の見通しには掲載されていません。そこでここでは、1人当たり名目GNI(国民総所得)成長率を確認します*2

実績が見通しを下回っている影響で当面は2014年1月の見通しよりも低い水準で推移する見込みですが、経済再生ケースでは2019年度以降は2014年1月の見通しとほぼ同じ水準になると見込まれています。他方、足下並みケースでは、2014年1月の見通しをやや下回る水準で推移する見込みになっています。
図表3 名目長期金利の推移 (3) 名目長期金利
公的年金財政の見通しでは年金積立金の運用利回りが前提として使われますが、これは内閣府の見通しの名目長期金利に株式等への分散投資の効果等を加味したものです。そこでここでは、名目長期金利を確認します。

実績は2014年1月の見通しよりも低い水準で推移していますが、2019年度以降に大きく上昇する見通しです。具体的には、経済再生ケースでは2014年1月の見通しと近い水準にまで上昇する見込みになっています。他方、足下並みケースでは、2014年1月の見通しを下回る水準になる見通しです。
 
 
*1 公的年金財政の見通しでは暦年ベースの値が用いられるが、ここでは内閣府の見通しの公表値である年度ベースの値を用いた。
*2 国民所得と労働分配率から決定される賃金・俸給総額を、雇用者数で除して一人当たり賃金が算出される。
3|年金財政の見通しへの影響:見通しと実績の乖離の程度や影響に要注目

次回(2019年)の公的年金財政の見通しでは、2019年に発表される中期経済見通しが前提として利用される見込みです。現時点の見通しから考えれば、経済再生ケースでは2020年代の前半には前回(2014年)の年金財政見通しに近い水準の前提になりそうですが、当面の実績と前回の前提との乖離がどう影響するかが注目されます。また足下並みケースでは、実績が前回の前提を下回っている分だけ長期的な水準も低下しそうです。前回の前提と当面の実績との乖離がどの程度になるのかが、注目されます。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

(2017年09月05日「保険・年金フォーカス」)

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