2016年11月17日

【フィリピンGDP】7-9月期は前年同期比7.1%増~公共部門の鈍化を民間部門が支え高成長を維持

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2016年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比7.1%増1と、前期の同7.0%増と市場予想2(同6.7%増)を上回った。中国をはじめ新興国経済が弱含むなか、フィリピン経済は6期連続で加速し、力強さが際立っている。

なお7-9月期の海外からの純所得3は同2.5%増(前期:同5.0%増)と低下し、国民総所得(GNI)は同6.3%増(前期:同6.7%増)と低下した。
需要項目別に見ると、公共部門が落ち込んだものの、民間部門の好調が成長を支えた(図表1)。
民間消費は前年同期比7.3%増(前期:同7.4%増)と高水準を維持した。食料・飲料(同8.4%増)や交通(同12.7%増)は一段と上昇したものの、住宅・水道光熱(同10.9%増)や娯楽・文化(同5.2%増)、通信(同1.6%増)、レストラン・ホテル(同7.8%増)はやや鈍化した。

政府消費は同3.1%増(前期:同13.5%増)と、5四半期ぶりに一桁台まで低下した。年前半に大統領選挙(5月)を控えて政府支出が急増したことの反動や政権交代に伴う執行の一時的な遅れによるものと見られる。

総固定資本形成は同23.5%増と、高水準ながらも前期の同24.6%増から小幅に低下した。

まず建設投資は同16.8%増(前期:同15.4%増)と一段と上昇した。公共建設投資が鈍化したものの、民間建設投資の好調が建設投資全体を押上げた(図表2)。一方、設備投資は同29.6%増(前期:同36.2%増)と低下した。内訳を見ると、輸送用機器(同38.7%増)が一段と上昇したものの、一般産業用機械(同17.7%増)や産業用特殊機械(同13.5%増)がやや鈍化した。

純輸出については、まず輸出が同8.8%増(前期:同10.0%増)と低下した。サービス輸出は同14.2%増(前期:同19.5%増)と、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業が好調だったものの、外国人旅行者数が伸び悩んで低下した。一方、財輸出は同7.8%増(前期:同7.2%増)と、主力の半導体こそ伸び悩んだものの、計算機や通信機器、衣料品を中心に上昇した。また輸入は同14.2%増と前期の同23.2%増から低下した。結果、純輸出の成長率への寄与度は▲3.5%ポイントと、7期連続のマイナスではあるが、マイナス幅は前期から2.5%ポイント縮小した。
(図表1)フィリピン 実質GDP成長率(需要側)/(図表2)建設部門の粗付加価値額(GVA)
供給項目別に見ると、鉱工業が同8.6%増(前期: 同7.1%増)と上昇したほか、農林水産業が前年同期比2.9増(前期: 同2.0%減)と5期ぶりのプラスに転じ、成長率を押し上げた(図表3)。一方、GDPの約6割を占めるサービス業は同6.9%増(前期: 同8.3%増)と低下した。

サービス業では、金融(同8.1%増)が上昇したものの、商業(同6.5%増)や運輸・通信(同4.9%増)、不動産(同8.8%増)、行政・国防(同3.7%増)、その他サービス(同7.0%増)など幅広い業種が低下した。

鉱工業では、製造業(同6.9%増)が石油製品や化学製品、基礎金属、家具・備品を中心に上昇すると共に、建設業(同15.5%増)は民間部門を中心に一段と上昇した。このほか、鉱業・採石業(同0.4%減)はニッケルを中心にマイナス幅が縮小した。

農林水産業では、農業(同4.5%増)はココナッツやバナナ、マンゴーなど多くの農作物が減少傾向にあるものの、コメやトウモロコシが昨年7-9月に台風被害で生産が落ち込んだ反動でプラスに転じて上昇した。また林業(同18.8%減)と水産業(同2.6%減)は引き続き減少した。

16年前半の高成長は5月の大統領選挙関連の特需によるものであり、7-9月期にはその効果が剥落して景気は減速すると思われた。実際、政府消費や公共建設投資は落ち込んだものの、成長率(前年同期比)は小幅に上昇し、政府の成長率目標(6~7%)の達成も確実視できる結果となった。7-9月期の成長率上昇は輸入の鈍化による寄与(+2.4%ポイント)が最も大きいとはいえ、民間部門が高水準を維持したことはフィリピン経済の好調ぶりを裏付けるものと言えよう。
(図表3)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)/(図表4)フィリピン 海外労働者送金額
(図表5)フィリピンの消費者信頼感指数、ビジネス信頼感指数 GDPの約7割を占める民間消費は、大統領選挙関連の特需が剥落したにもかかわらず、7%台の高水準を維持している。消費者物価上昇率は緩やかに上昇したほか、7-9月期の海外労働者の送金額(ペソベース)も前年同期比7.7%増(4-6月期:同10.2%増)と伸び悩んだ(図表4)。しかし、雇用の拡大傾向は続いており、今年度から始まった段階的な国家公務員給与の引き上げ、緩和的な金融環境の継続などが消費の支えとなっており、消費者信頼感指数は7-9月期も上昇している(図表5)。 また投資も政府の資本支出の落ち込みや政権交代に伴う政策変更の可能性があったものの、民間部門が好調で二桁増の高い伸びが続いている。

今後は景気の過熱や原油価格の上昇などによる物価上昇が見込まれ、民間消費は鈍化するだろう。しかし、17年度予算案(歳出は前年度比11.6%増)の執行で年明けには政府支出が持ち直すほか、前政権の良い部分は継続すると公言するドゥテルテ氏が持ち前の実行力の高さでもって外資誘致4や官民連携(PPP)のインフラ投資を加速させることができれば、来年以降も6%台の高めの成長が続く展開は十分に考えられる。
 
 
1 11月17日、国家統計調整委員会(NSCB)が国内総生産(GDP)統計を公表。前期比(季節調整値)は1.2%増と前期の同1.8%増から上昇した。
2 Bloomberg調査
3 フィリピンは海外の出稼ぎ労働者が多い。国内への仕送りは海外からの純所得として計上され、消費に大きな影響を及ぼす。
4 16年10月、ドゥテルテ大統領は民間企業を連れて中国を訪問。総額240億米ドル(約2.6兆円)の投資や融資に関する契約を締結したとされる。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2016年11月17日「ニッセイ景況アンケート」)

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