2016年07月14日

【東南アジア経済】ASEANの製造業生産(7月号)~選挙終了でフィリピン急落、インドネシアは上昇

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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図表1)ASEAN6ヵ国製造業生産指数の伸び率 5月のASEAN主要6カ国の製造業生産指数の伸び率(前年同月比)を見ると、フィリピンが統一選挙の終了によって選挙特需が剥落したために急落した。一方、景気回復の遅れていたインドネシア1が同7.5%増(前月:同2.5%増)と大きく上昇した。インドネシアは統計結果の変動が大きいため注意が必要だが、4-6月期の企業景況感も大幅に改善しており、年明けからの段階的な利下げの効果が波及し始めた可能性もある。このほか中国からの生産拠点移転の動きが続くベトナムは高い伸びとなり、景気刺激策が奏効したタイとシンガポールは3ヵ月連続のプラスの伸びを維持した。また資源安に苦しむマレーシアは伸び悩んだ(図表1)。
(図表2)タイ製造業生産指数(業種別)の伸び率 タイの16年5月の製造業生産指数は前年同月比2.6%増と、前月の0.9%増から上昇した(図表2)。昨年から一進一退の状況が続いているが、足元は政府支出の拡大や干ばつ被害の収束を受けて3ヵ月連続のプラスとなっている。

業種別に見ると、全21業種中9業種が前年同月比で上昇、12業種が低下した。5月は自動車が同19.5%増(前月:同9.1%増)と新型のピックアップトラックの需要拡大を受けて一段と上昇した。またゴム・プラスチック製品(同5.4%増)や猛暑によってエアコン販売が増加だった電気機械・器具(同7.5%増)も好調だった。しかし、海外需要の減速を受けて食料・飲料(同%3.1%減)、織物(同8.6%減)やアパレル(同33.5%減)、ハードディスクを含むオフィス用機器(同19.9%減)は減少傾向にあり、ラジオ・テレビ・通信機器(同2.7%増)、化学製品(同1.3%増)など伸び悩んでいる業種も多い。

5月の出荷指数は同4.1%増(前月:同2.1%増)と緩やかな増加が続く一方、在庫指数は同0.6%減(前月:同0.7%増)と減少し、出荷・在庫バランスの改善が見られた。また5月の設備稼働率は67.5%と、ソンクラーン休暇の影響で低下した前月(59.5%)から大きく上昇した。
(図表3)マレーシア製造業生産指数(業種別)の伸び率 マレーシアの16年5月の鉱工業生産指数は前年同月比2.7%増と、前月の同3.0%から小幅に低下した。

業種別に見ると、全体の7割弱を占める製造業が同3.6%増(前月:同3.2%増)と上昇し、底堅い伸びを維持し、電力は同9.6%増(前月:同9.5%増)と好調が続いている。一方、全体の3割弱を占める鉱業は同1.1%減(前月:同0.7%増)と停滞の域を脱していない。

製造業の内訳を見ると、全23業種中20業種が前年同月比で上昇、3業種が低下した。主力のコンピュータ・電子・光学製品は同9.1%増(前月:同8.8%増)、化学製品は同6.6%増(前月:同4.1%増)と堅調な伸びが続いたほか、石油製品(同4.7%増)とゴム・プラスチック製品(同4.2%増)も底堅さを維持した。一方、食品は同7.3%減と、前月(同8.9%減)に続いて減少した(図表3)。
(図表4)シンガポール製造業生産指数(分野別)の伸び率 シンガポールの16年5月の製造業生産指数は前年同月比0.9%増と、旧正月の影響でマイナスとなった2月を除くと、主力の電子製品とバイオ医療が好調で年明けからプラスの伸びを維持している(図表4)。

分野別に見ると、主力のバイオ医療は同13.2%増(前月:同15.0%増)と医薬品原料や医療機器が共に堅調だった。また全体の約3割を占める電子製品は同5.9%増(前月:同11.1%増)と鈍化したものの、半導体を中心に堅調を維持している。また化学は同0.8%減(前月:同4.3%減)と香水や石油の生産増、精密エンジニアリングは同1.0%減(前月:同2.8%減)と半導体関連の機械・システムの輸出増加を受けて、それぞれマイナス幅が縮小した。一方、輸送エンジニアリングは同17.2%減(前月:同12.1%減)と、航空と陸上が二桁増となったものの、船舶・海運の大幅な減少を受けて低下した。
(図表5)フィリピン工業生産量指数(業種別)の伸び率 フィリピンの16年5月の工業生産量指数は前年同月比1.2%減と、前月の同11.9%増から低下した。選挙特需を受けて年明けから概ね二桁増のペースで拡大していたが、5月は統一選挙の終了で急落した(図表5)。

業種別に見ると、全20業種中10業種が前年同月比で上昇、10業種が低下した。革製品(同83.3%減)や石油製品(同31.4%減)の大幅な減少傾向が続くなか、全体の約2割を占める電気機械が同4.3%減(前月:同4.1%減)、化学製品が同48.8%減(前月:同5.6%減)、出版・印刷が同5.0%増(前月:36.3%増)、紙製品が同0.1%減(前月:同9.5%増)と急落したことが全体を押下げた。一方、食品加工(同20.4%増)、機械・設備(同43.5%増)、輸送用機械(同20.3%増)など、二桁増の伸びが続いている業種もある。

また4月の設備稼働率は83.3%となり、前月から横ばいとなった。
(図表6)ベトナム鉱工業生産指数(業種別)の伸び率 ベトナムの16年5月の鉱工業生産指数は前年同月比7.9%増と、前月の同7.9%増から低下した(図表6)。依然として高水準を維持しているが、上昇ペースは昨年7月をピークにやや鈍化している。業種別に見ると、製造業が同11.2%増、電気ガス業が同11.2%増、水供給業が同7.4%増と好調を維持しているものの、鉱業が同4.4%減と6ヵ月連続のマイナスとなって全体の重石となっている。

製造業の内訳を見ると、食品加工(同3.8%増)が平均を下回る一方、主力のコンピュータ・電子・光学機器(同20.7%増)をはじめ織物(同15.4%増)、バイク(同31.5%増)など外国企業の投資が伸びている分野は堅調な伸びを示している。

5月の製造業の出荷指数は同7.8%増と、これまでの二桁台の伸びに対して鈍い動きが見られるなか、在庫指数は同9.0%増と小幅に上昇した結果、出荷・在庫バランス(出荷前年比-在庫前年比)は▲1.2%ポイントと4ヵ月ぶりのマイナスとなった。
 
1 インドネシアの製造業生産の業種別指数は四半期毎に開示されるため、国別の記述は割愛する。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2016年07月14日「経済・金融フラッシュ」)

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