2016年06月14日

米国における連邦による保険資本規制-FRBが金融システムの安定上重要な保険会社等に対する資本規制のアプローチ等を公表-

保険研究部 取締役   中村 亮一

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■要旨

米国における保険会社の監督・規制は、基本的には州をベースに行われている。ただし、2008年の金融危機を契機として、2010年にドッド・フランク法(Dodd-Frank Act)が成立し、連邦による規制が導入されることになった。

この結果、現在、(1)NBFC(ノンバンク金融機関)でありながら、SIFI(Systemically Important Financial Institutions:金融システムの安定に重大な影響を与えるような会社)に指定された保険会社(Systemically Important Insurance Companies:以下「システム上重要な保険会社(SIIC)」と呼ぶこととする)、(2)保険活動に有意に従事している預貯金取扱金融機関持株会社(Insurance Depository Institution Holding Companies:以下「銀行や貯蓄金融機関を所有する保険会社(IDIHC)」と呼ぶこととする)、のいずれかに該当する会社については、FRB(連邦準備制度理事会)による検査、規制、監督を受けることになっている。

6月3日に、FRBより、これらの連邦による監督下にある保険会社に対するグループ資本規制に対するアプローチ等の提案が公開された。

今回のレポートでは、このFRBによって提案された保険会社に対するグループ資本規制等の考え方の概要及びこれに対する保険業界の反応等を報告する。

■目次

1―はじめに
2―FRBにより提案された保険会社の資本規制等の概要
  1|これまでの経緯及び背景
  2|今回の提案内容の概要(ANPR )
  3|今回の提案内容の概要(SIICに対する規制)
3―保険業界の反応
  1|ACLI(The American Council of Life Insurers:米国生命保険協会)
  2|PCI(The Property Casualty Insurers Association of America:米国損害保険協会)
  3|AIA(The American Insurance Association:米国保険協会)
4―今回の提案に対する補足説明
  1|EUや国際的なグループ資本基準のアプローチとの比較
  2|SIICに対する流動性リスクに関する規制
5―まとめ

1―はじめに

1―はじめに

米国における保険会社の監督・規制は、基本的には州をベースに行われている。ただし、2008年の金融危機を契機として、2010年にドッド・フランク法(Dodd-Frank Act)が成立し、連邦による規制が導入されることになった。

この結果、現在、(1)NBFC(ノンバンク金融機関)でありながら、SIFI(Systemically Important Financial Institutions:金融システムの安定に重大な影響を与えるような会社)に指定された保険会社(Systemically Important Insurance Companies:以下「システム上重要な保険会社(SIIC)」1 と呼ぶこととする)、(2)保険活動に有意に従事している預貯金取扱金融機関持株会社(Insurance Depository Institution Holding Companies:以下「銀行や貯蓄金融機関2を所有する保険会社(IDIHC)」1と呼ぶこととする)3、のいずれかに該当する会社については、FRB(連邦準備制度理事会)による検査、規制、監督4を受けることになっている。

6月3日に、FRBより、これらの連邦による監督下にある保険会社に対するグループ資本規制に対するアプローチ等の提案が公開された。

今回のレポートでは、このFRBによって提案された保険会社に対するグループ資本規制等の考え方の概要及びこれに対する保険業界の反応等を報告する。
 
1 「SIIC」及び「IDIHC」の略称については、あくまでも筆者により、このレポートのために使用しているものである。
2 thriftsと呼ばれる。
3 SHLCs(Savings and Loan Holding Companies:貯蓄貸付持株会社)又はBHCs(Bank Holding Companies:銀行持株会社)として組織化される会社であるが、現在BHCでこれに該当する会社はない。
4 資産ベースで約2兆ドル(保険業界の約1/4に相当)の保険会社が、FRBの監督を受けている。

2―FRBにより提案された保険会社の資本規制等の概要

2―FRBにより提案された保険会社の資本規制等の概要

1|これまでの経緯及び背景
今回の資本規制のアプローチ等の提案は、システム上重要な保険会社(SIIC)及び銀行や貯蓄金融機関を所有する保険会社(IDIHC)を監督する責任を連邦政府機関に置くドッド・フランク法5の採択後6年後にやってきた6

6月3日に公開され、8月2日の締切りで、コメントを求めているものは、以下の2つの提案についてである。

(1)システム上重要な保険会社(SIIC)及び銀行や貯蓄金融機関を所有する保険会社(IDIHC)に適用される規制上の資本要件に対するアプローチについてのコメントを求めるANPR7(advanced notice of proposed rule-making:規則制定案の事前通知)

(2)FSOC(Financial Stability Oversight Council:金融安定監督委員会)によってSIFIとして指定された保険会社(SIIC)に対する強化された健全性基準を適用する規則案

これら2つが提案されている背景には、以下のような状況がある。

(1)のANPRは、グループ資本基準の算出に関するものである。現状では、保険会社は、持株会社レベルでは資本要件に直面していない。代わりに、資本規則は、事業会社レベルで適用し、州の規制当局によって定義されている。グループレベルでの資本基準が存在しないことについては、2015年4月に公表されたIMF(国際通貨基金)によるFSAP(Financial Sector Assessment Program:金融セクター評価プログラム)においても、問題指摘されていた点8である。

グループレベルでの資本基準については、EU(欧州連合)のソルベンシーIIにおける実施例やIAIS(保険監督者国際機構)においても検討が行われている状況の中で、どのようなアプローチが採用されるのかが注目されていた。

これに対して、保険業界では、その資本要件を開発する際には、既存のルールの上に構築するように、連邦政府の規制当局に対してロビー活動を行ってきていた。

(2)のSIICに対する規制に関しては、そもそも、SIFIへの指定に関して、監督当局と保険会社との間の考え方の相違があり、SIFIに指定されていたMetLifeが、3月の裁判所の判断で、指定を解除される、という動きも見られた中で、具体的にSIICに対して適用される強化された規制内容がどのようなものになるのかが注目されていた。
 
5 例えば、ドッド・フランク法の第165項は、FRBが、ストレステストに加えて、より厳格なリスクベースのレバレッジ資本要件を含む強化された健全性基準を設定することを求めている。
6 なお、FRBは、4月に、システミックな保険会社に対する報告要件のセットを、コンサルテーションのためリリースし、保険規制に初進出している。
7 これは、FRBが検討の初期段階にあり、正式の提案を出す前にフィードバックを求めていることを意味している。
8 基礎研レポート「米国の責任準備金評価制度はIMFによってどう評価されたのか―米国FSAP〔保険セクター〕の結果報告―」(2015.5.11)

 
2|今回の提案内容の概要(ANPR
FRBの公表している内容によると、以下の通りとなっている。

(1)保険会社のタイプにより、2つのアプローチを提案
資本要件に対するアプローチについては、FRBは、1)システム上重要な保険会社(SIIC)に適用される連結アプローチ(consolidated approach)、2)銀行や貯蓄金融機関を所有する保険会社(IDIHC)のためのビルディング・ブロック・アプローチ(building-block approach)、と呼ばれる2つのアプローチを提案している。このうち、2)のビルディング・ブロック・アプローチについては、基本的には、保険業界が要望してきたアプローチに基づいたものとなっている。

(2)FRB議長等の発言
FRBは、「利害関係者が、金融の安定を促進するため及び保険会社が所有する預金取扱機関を保護するための資本基準の適切な構造についてコメントする十分な機会を提供するために、ANPRを公表した」としている。

また、FRBのJanet L. Yellen議長は、「我々が検討しているフレームワークは、保険会社の、規制されたそして規制されていない子会社全体の全てのリスクに対処するであろう。」「私は、この提案は、私たちが監督している保険会社にとって適切であり、それが私たちの金融システムの耐性力と安定性を高める資本基準に向けた重要なステップであると考えている。」と述べている。

さらに、FRBのDaniel K. Tarullo理事は、「今日提案されたデュアルアプローチは、様々な種類と複雑さを有する金融仲介機関によってもたらされる異なるリスクに対する資本規制を調整している我々の努力を示すもう一つの例となっている。」と述べている。

(3)2つのアプローチの概要
2つのアプローチの概要は、以下の通りである。

1) 連結アプローチ(Consolidated ApproachCA
SIFIに指定されている保険会社(SIIC)(2016年5月末時点で、AIG、Prudentialの2社)9に対して適用される。

連結アプローチは、保険会社全体の資産と保険負債を、リスクのセグメントに分類し、連結レベルでの各セグメントに適切なリスクファクターを適用し、必要資本の最低限の比率を設定する。
具体的には、以下の算式による。

キャピタル・レシオ=適格資本/Σ(エクスポジャー金額×リスクファクター)

2) ビルディング・ブロック・アプローチ(Building Block ApproachBBA
銀行や貯蓄金融機関を所有する保険会社(IDIHC)(2016年5月末時点で12社)10に対して適用される。

ビルディング・ブロック・アプローチは、理事会の監督の目的を反映するための調整を条件に、結合されたグループレベルの資本要件に到達するために、異なる会社(州あるいは外国保険会社、非保険金融会社、非金融会社、持株会社)のそれぞれの既存の資本要件(それぞれの会社形態を監督する資本要件に基づいて決定)を集約する。

具体的には、以下の算式による。

キャピタル・レシオ=適格資本/Σ(調整後必要資本×スカラー)

ここにおける「調整」には、米国におけるSAPの間やSAPと外国管轄地域の間の会計実務を一致させ、標準化するための調整に加えて、会社間の取引を消去する調整が含まれる。
また、「スカラー(Scalar)」の使用で、異なる管轄地域間の厳格さの違いを反映する。
 
9 MetLifeも、FSOCにより、SIFIに指定されていたが、3月に連邦裁判所がこの指定に反対する判決を出しており、(この判決に対する上訴もなされているが)現在はSIFI指定会社とは見なされていない。
10 First American Financial、State Farm Insurance、Donegal Mutual Insurance等が含まれている。
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保険研究部   取締役

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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