2016年04月13日

マネー統計(16年3月分)~マイナス金利の効果はハッキリせず、投信は減速

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向: 円高が伸び率を押し下げ

日銀が4月12日に発表した貸出・預金動向(速報)によると、3月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.0%と前月(前年比2.2%)から低下した。貸出の増勢自体は続いているものの、昨年8月(2.8%)をピークとして伸び率は低下基調にある。業態別に見ると、都銀等が前年比0.7%(前月は1.0%)とかなり低下、地銀(第2地銀を含む)も前年比3.3%(前月は3.4%)と小幅に低下している。
前月同様、昨年夏を境に為替の前年比での円安幅が急速に縮小、さらに2月以降は円高に転じたことが外貨建て貸出の円換算額を押し下げ、貸出全体の伸び率低下をもたらしている。一方、為替変動等を調整した「特殊要因調整後」の伸び率(2月分まで・図表1)では、ここ数ヵ月伸び率は持ち直しつつあり、実態として貸出の伸びが減速しているわけではない(図表1~3)。
ただし、特殊要因調整後(2月分まで)で見ても、伸び率は昨夏の水準にほぼ戻った程度であり、マイナス金利の効果は今のところはっきり見えていない。
 
(図表1)銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) 銀行貸出とドル円レート(月次平均の前年比)/(図表4)貸出先別貸出金
(図表5)国内銀行の新規貸出金利 なお、2月の新規貸出金利については、短期(一年未満)が0.706%(1月は0.68%)、長期(1年以上)が0.867%(1月は0.939%)であった(図表5)。   
同指標は毎月の振れがかなり大きく、変化が掴みにくい点には留意が必要だが、1月末のマイナス金利決定以降、国債利回りが大きく低下した割には、新規貸出金利への影響は限られている印象。実際、短期は前月から小幅に上昇したほか、長期は低下したものの、過去最低というわけではない。
これが単にタイムラグの問題なのか、それとも実態として貸出金利への波及が限定的なのか、もうしばらくデータが揃うのを待つ必要がある。
 

2.マネタリーベース: 紙幣の伸び率がさらに拡大

4月4日に発表された3月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中のお金)を示すマネタリーベース平均残高は前年比で28.5%の増加となり、伸び率は前月(同29.0%)からやや低下した。日銀当座預金の伸び率が前年比39.6%と前月(40.6%)を下回ったためだ。ただし、日銀当座預金の前年差額は、ここ数ヵ月にわたって73~74兆円台で安定推移している。つまり、伸び率の低下は分母にあたる前年の残高増加に伴うものであり、特に問題はない。
なお、最近増勢が強まっている日銀券(紙幣)発行残高は、前年比6.7%(前月は6.6%)と3ヵ月連続で伸び率を拡大、2003年2月以来の高い伸びとなっている。訪日外国人の増加に伴う現金需要が追い風となっているほか、(1)相続税増税(15年1月~)、(2)マイナンバー制度の導入(15年10月~)、マイナス金利政策の導入(16年2月~)などで、タンス預金の増加に拍車がかかっているようだ(図表6~7)。
(図表6) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表7) 日銀当座預金残高(平残)
(図表8)マネタリーベース残高と前月比の推移 金融政策との関係では、現行の金融政策におけるマネタリーベース増加目標は「年間約80兆円増」であり、単純計算では月当たり6.7兆円増が必要になるが、3月の月末残高の前月末比増加額は16.9兆円とこれを大きく上回った。ただし、3月は季節柄国債(国庫短期証券含む)の償還(日銀当座預金増加要因)が多く、マネタリーベースが拡大しやすい時期にあたることが影響している。
実際、季節調整済みのマネタリーベースの月間平均残高で見ると、3月の増加額は前月比5.8兆円と、目標達成ペースをやや下回っている(図表8)。
ただし、季節調整済みのマネタリーベースの月間平均残高ベースでも、1-3月の平均では月7.8兆円の増加ペースとなっており、今年に入ってからもマネタリーベースの積み上げは順調に進んでいると判断できる。
 

3.マネーストック: 投資信託の伸びが減速

日銀が4月13日に発表した3月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.2%(前月改定値も3.2%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.6%(前月改定値も2.6%)と、それぞれ前月から横ばいとなった。
M3の内訳では、現金通貨の伸びが前年比6.8%(前月は6.7%)と12ヶ月連続で上昇し、2003年2月以来の高い伸びを記録。マネタリーベース中の日銀券発行残高の伸びと整合的な動きとなっている。預金通貨(普通預金など)の伸び率も5.3%(前月改定値は4.6%)と拡大した。一方、準通貨(定期預金など)の伸びが鈍化、CD(譲渡性預金)のマイナス幅が拡大したことが、全体の伸びを抑制した(図表9~10)。
 
M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性1の伸び率は前年比3.2%(前月は3.6%)と前月から大きく低下。上述のとおり、M3の伸びに変化はなかったが、残高が大きい金銭の信託(前年比伸び率:前月7.7%→5.9%)の伸びが低下したほか、投資信託(元本ベース・前年比伸び率:前月13.7%→10.9%)の伸びが大きく低下したことが響いた。
投資信託の伸び率は昨年12月をピークに3ヵ月連続で低下している。今年に入ってから金融市場の混乱が長引いていることから、家計などがリスク性資産への投資を手控えて様子見している可能性がある。
(図表9) M2、M3、広義流動性の動き/(図表10) 現金・預金の動き/(図表11) 投資信託と準通貨の動き
 
1 今回、2008SNAを踏まえた見直しにより、2003年4月以降の数値が遡及改定されている
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

(2016年04月13日「経済・金融フラッシュ」)

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