2016年02月19日

もはや社長ポストの禅譲は許されぬ?-金融庁 両コードのフォローアップ会議が「意見書(2)」を公表

江木 聡

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■要旨

昨年8月に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が、まずコーポレートガバナンスに関する議論と検証の結果をとりまとめ、昨日2月18日に意見書「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方」を公表した。
 
意見書は、各企業における今後の取組みや投資家との対話に資するよう、これまでの上場会社によるコードへの対応状況を踏まえ、コード諸原則のうち、取締役会のあり方に関し、『形式』的な対応ではなく、『実効』的なコーポレートガバナンスを実現していく上で、現時点で重要な視点を示すものである。
 
意見書は次の4項目で構成されている。
 1.最高経営責任者(CEO)の選解任のあり方
 2.取締役会の構成
 3.取締役会の運営
 4.取締役会の実効性評価
本稿では、この中から、上場企業にとって最もインパクトが大きいと思われる、「1.最高経営責任者(CEO)の選解任のあり方」を取り上げて内容を紹介したい。


■目次

1|コードフォローアップの経緯
2|最高経営責任者(CEO)の選解任のあり方
3|株主総会に向けて


 

1|コードフォローアップの経緯

1|コードフォローアップの経緯

「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下「フォローアップ会議」という)が、金融庁および東京証券取引所によって昨年8月に設置された。その目的は、2つのコードの普及・定着状況をフォローアップするとともに、上場企業全体のコーポレートガバナンスの更なる充実に向けて、必要な施策を議論・提言することである。会議メンバーは企業経営者、投資家、研究者等の有識者から構成され、まずコーポレートガバナンス・コードを取り上げて、昨年9月から6回に亘り議論と検証が行われた。そのとりまとめ結果が、昨日2月18日に「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方」(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(2)(以下「意見書」))として公表された1
 
意見書は、各企業における今後の取組みや投資家との対話に資するよう、これまでの上場会社によるコードへの対応状況を踏まえ、コード諸原則のうち、取締役会のあり方に関し、『形式』的な対応ではなく、『実効』的なコーポレートガバナンスを実現していく上で、現時点で重要な視点を示すものである。
 
意見書の本編「II.企業を取り巻く経営環境の変化と取締役会のあり方」は次の4項目で構成されている。
1.最高経営責任者(CEO)の選解任のあり方
2.取締役会の構成
3.取締役会の運営
4.取締役会の実効性評価
本稿では、この中から、上場企業にとって最もインパクトが大きいと思われる、「1.最高経営責任者(CEO)の選解任のあり方」を取り上げて内容を紹介したい。  

2|最高経営責任者(CEO)の選解任のあり方

2|最高経営責任者(CEO)の選解任のあり方

意見書の冒頭では、現在の厳しい企業経営環境に即応していくには、「経営陣が最高経営責任者を中心として、絶え間なく、先見性のある、適確な経営判断を行っていくことが重要であるので、CEOの選解任は上場企業にとって最も重要な戦略的意思決定であり、そのプロセスには、客観性・適時性・透明性が強く求められる」という前提が示される。その上で、「最も不足しているのはCEOとしての資質を備えた人材であるとの指摘がある」として、後継者計画の策定と運用には、「社内論理が優先される不透明なプロセスによることなく、客観性・適時性・透明性を確保するような手続が求められる」と指摘している。
 
これは、日本企業では一般的となっている、現役CEOが次期CEOの実質的選任権を専ら行使する慣行、いわゆる「禅譲」を許さない内容である。CEOによる経営掌握の大きな要素である次期社長の人事権が制限されることになる。
 
さらに意見書は、CEOの解任についても、業績評価の結果、「CEOに問題があると認められるような場合には、CEOを解任できる仕組みを整えておくことが必要である」としている。現状、ガバナンスコードの補充原則4-3①が、「取締役会は、経営陣幹部の選任や解任について、会社の業績等の評価を踏まえ、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべきである」とはしているが、最近の企業不祥事も踏まえ、改めてCEO解任に焦点を当てたものである。
 
勿論、会社法上、取締役会はその決議によりCEOを解任できるが、意見書は、その仕組みを取締役会として実装することを求めている。社外取締役は別として、社内取締役はもはやCEOの実質的部下ではなく、CEOの解任権を共有し、監督する立場に位置づけられることになる。多くの上場企業における取締役会等の実情を踏まえると、CEOが自ら権力構造の転換を図らない限り、かなりハードルが高い問題である。また、これを担保すべく、「取締役会が適時・適切にCEOを解任できるよう、取締役会の経営陣からの独立性・客観性が十分に確保されていることが重要」であると指摘する。
 
尚、意見書には、適宜、「取組みの例」が挿入されている。これは、コードの実効性を確保していく上で重要と考えられる事項に関し、フォローアップ会議において紹介された取組み例等を参考にして示したもので、新たに形式的なルールを構成するものではない。
 

3|株主総会に向けて

3|株主総会に向けて

フォローアップ会議の目的は、必要な施策を提言することである。意見書は、最後に、「各上場会社におかれては、本意見書を参考に、資質とリーダーシップを有する取締役を計画的に育成、・選任し、独立性・客観性を備えた取締役会を構成すること、また、取締役会の適確な評価を行うことにより、取締役会の実効性向上に向けたPDCAサイクルを作り上げていくことが期待される」と結んでいる。
 
フォローアップ会議のテーマは、2月からスチュワードシップ・コードに軸足を移した。上場企業にとっては、コーポレートガバナンス分野の意見書公表を受けて、例えば、3月企業の株主総会時期までに、コーポレートガバナンス・コードが改定されるのか気になるところである。東証によれば、現時点では、コードの改定までは予定されていない模様である2

しかし、定時株主総会に向けて、意見書が、株主投資家からの建設的対話(エンゲージメント)における視点としてクローズアップされることは間違いないだろう。とりわけ、意見書が取り上げた原則(補充原則を含む)についてコンプライを表明している企業にとって、今回の意見書公表は、その具体的プラクティスとしての「取組みの例」も参考としながら、再度、現実的なガバナンス向上の取組について検討してみる契機となるのではないだろうか。
 
 
2 日本取引所グループに対する個別照会等による確認結果

 
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(2016年02月19日「基礎研レター」)

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