2015年11月09日

中国の景気指標を総点検しよう!-そこから浮かび上がる3つの注目点

基礎研REPORT(冊子版) 2015年11月号

三尾 幸吉郎

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1―主要な景気指標の動向

1│工業生産

中国経済を見る上で最も重要な指標は工業生産(実質付加価値ベース)だろう。9月の工業生産は前年同月比5.7%増と8月の同6.1%増を0.4ポイント下回った。まだ3月の同5.6%増を若干上回ってはいるものの、6月の同6.8%増をピークに伸びの鈍化傾向が続いており、工業生産は低迷している[図表1]。

 

2│製造業PMI

製造業PMI(中国国家統計局)も注目度の高い指標である。これは製造業3000社の購買担当者に対し毎月実施されるアンケート調査の結果を元に計算されるもので、通常は50%が景気強弱の分岐点とされる。9月の製造業PMIは49.8%と、8月より0.1ポイント改善したものの、2ヵ月連続で50%を割り込み、景気失速の懸念が浮上している[図表2]。但し、同時に発表された生産経営活動予想指数は53.9%と50%を大きく上回っており、今年1月に同指数が47.7%と50%を割り込んだ時のように景気の先行きを悲観している訳ではないようだ。

 

3│非製造業PMI(商務活動指数)

また、中国では製造業からサービス業への構造転換が進行していることから、製造業だけを見ていたのでは先行きを見誤りかねない。そこで注目したいのが非製造業PMI(商務活動指数)である。9月の非製造業PMIは53.4%と、50%を大きく上回っており非製造業は堅調である[図表2]。

 

4│小売売上高

一方、需要面では、個人消費の動きを示す小売売上高にも注目したい。9月の小売売上高は前年同月比10.9%増と8月の同10.8%増を上回り、4月をボトムに緩やかながら回復傾向を辿っている。また、価格要因を除いた実質では、9月は同10.8%増と8月の同10.4%増を上回っており、個人消費は堅調な動きを示している。

 

5│固定資産投資

また、投資の動きを見る上で代表的な指標となるのが固定資産投資(除く農家の投資)である。足元の動きを見ると、9月は前年同月比5.4%増(推定)と8月の同8.8%増を3.4ポイント下回るとともに、直近のボトムだった4月の同7.5%増も下回り、減速傾向が明確となっている[図表3]。



 

2―その他の重要な景気指標

1│電力消費量

電力消費量も景気動向を見る上では有効な指標である。李克強首相は特に工業の電力消費量を重視しているとされる。足元の動きを見ると、9月の電力消費量は前年同月比0.2%減と8月の同1.9%増からマイナスに転じた。
    また、1-9月期累計で見ると前年同期比0.8%増と昨年の同3.8%増に比べて伸びは鈍化した。業種別には、第3次産業は同7.3%増と昨年より伸びが加速する一方、第2次産業は同1.0%減とマイナスに落ち込んでおり、第3次産業の堅調さと第2次産業の悪さを示している[図表4]。

 

2│貨物輸送量

貨物輸送量の動きも重要である。特に鉄道貨物輸送量は李克強首相が重視していたとされる指標でもある。しかし、鉄道貨物の過半を占める石炭はエネルギー改革の中で構造的に減少、景気動向とかけ離れた動きを示している。そこで、鉄道貨物(約9%)よりも貨物輸送全体に占める割合が大きい道路貨物(約76%)を見ると、1-9月期累計で前年同月比6.0%増と、安定的な伸びを示している[図表5]。

 

3│通貨供給量(M2)

おカネが動きだすと景気も良くなることから通貨供給量(M2)も注目したい指標である。足元の動きを見ると、9月は前年同月比13.1%増と3ヵ月連続で今年の目標値(12%前後)を上回った[図表6]。また、おカネが投資に回る時には中長期融資が伸びることが多いが、9月は前年同月比15.0%増と8月の同14.6%増から伸びを高めた。



 

3―今後の鍵を握る3つの注目点

1│自動車販売は低迷が続くのか?

中国の景気指標の中で、ここもと最も悪さが目立つのは自動車販売である[図表7]。腐敗汚職撲滅運動に伴う公用車販売の減少や環境問題に配慮したナンバープレート制限などの影響があるとはいえ、予想以上の悪化となっている。また、株価がさらに下落するようだと、その影響が自動車販売にも及んでくる恐れもある。今後年末にかけては、例年販売が増える時期に入るだけに、そこで前年を上回る水準を維持できるか、要注目である。

 

2│住宅販売は好調を維持するのか?

中国の景気指標の中で、ここもと最も良さが目立つのが住宅販売である[図表8]。今年3月までの1年4ヵ月に渡って前年割れが続いていた住宅販売(面積)だが、4月にはプラスに転じ、その後も回復を続けて、家具や家電などの消費にもプラス寄与するようになってきた。今後年末にかけては、例年販売が増える時期に入るが、そこで住宅販売が思うように伸びないようだと、景気が失速する恐れが浮上しかねないだけに、要注目である。

 

3│李克強指数はどちらに動くか?

李克強指数は、李克強首相が遼寧省党委員会書記だった2007年、景気実態を表す統計として、電力消費量(工業)、鉄道貨物輸送量、銀行貸出残高(中長期)の3つを重視したことに由来する。前述のとおり鉄道貨物輸送量は現状にそぐわない面もあるが、鉄道だけでなく道路なども含む貨物輸送全体に入れ替えれば参考になる。最近の動きを見ると、3月には大きく落ち込んだものの、その後は6%前後で一進一退である[図表9]。今後この李克強指数(修正後)が上へ動きだすのかそれとも下か要注目である。



 

 
 

 
  1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、月毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
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(2015年11月09日「基礎研マンスリー」)

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