コラム
2014年09月29日

「ケアハラ」という企業経営リスク-人口減少時代の人材マネジメント

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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先日、最高裁判所第1小法廷で「マタニティ・ハラスメント」訴訟の原告と被告の意見を聴く口頭弁論が開かれた。妊娠を理由に病院管理職を解任・異動させたことが、男女雇用機会均等法が禁じる「妊娠・出産を理由とした職場での不当な扱い」に当たるかどうかが争われているのだ。1審の広島地裁、2審の広島高裁のいずれも違法性を否定しているが、最高裁では異なる判断が示されるかもしれない。

この「マタハラ」問題を契機に人口減少時代の企業経営について考えてみよう。まず、「マタハラ」を妊娠中の女性の問題に留まらず、企業の直面する普遍的な人材マネジメントと捉えることが必要だ。何故なら今日企業で働く人の中には、女性の妊娠・出産や子育てだけでなく、親や配偶者の介護、本人自身や家族の病気療養など、「自他のケア」のために時間制約を抱える就業者が増えているからである。

これまでの企業活動は、性別役割分業を前提に時間制約の少ない男性社員を中心に展開されてきた。家事や育児、介護などは専業主婦の妻に任せ、夫は体力が続く限り働けた。以前『24時間戦えますか』という栄養ドリンク剤のコマーシャルもあった。「24時間働ける人」だけが社員として一人前とされ、時間制約のある働き方しかできない人は、同じ労働市場には入れなかったのである。

近年では、中高年層を中心に介護離職者が年間10万人以上発生している。老々介護が増加し、老親や配偶者の介護のために出張や残業が制約され、最終的に離職に追い込まれる中高年管理職もいる。組織の中枢を占める管理職が離職する影響は、企業にとって深刻であるにもかかわらず、仕事と介護などの両立が困難な管理職に対して、不当な降格や配置転換を行うなどの「ケアハラ」も起こっている。

また、がんと診断される人は年間約80万人(2008年)にも及び、これまでは治療に専念するために離職する人も多かった。しかし、がん患者が診断から5年後に生存している割合(5年相対生存率)がほぼ6割に達した現在、がん治療をしながら就業を続ける人も32万5千人いる*。その中には、治療や体調不良のために就労時間に制約が生じ、それを理由に不当な扱いを受ける人もいるという。

政府の成長戦略として「女性の活躍」が推進されているが、企業が人口減少時代を生き抜くためには、それに加えて、男女を問わず子育て、介護、療養など「自他のケア」をしながら一定の制約の中で働く人の活用が不可欠である。今後、企業にとって重大な経営リスクに繋がる「ケア・ハラスメント」を未然に防止するためにも、「ケア」する人たちが様々な制約の中でも働きやすい体制づくりと人材マネジメントがますます重要になっているのである。




 
 厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」を基に同省健康局にて特別集計したもの
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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

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