コラム
2013年12月13日

スマホ販売の常識は、生保販売の非常識?―スマホを買ってみました―

保険研究部 主任研究員   松岡 博司

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はじめに
   ついにスマホデビューを果たした。話題の新機種が主要3キャリア全部で取り扱われるようになったのを契機に、これまでの様子見姿勢を一変(実はだいぶ逡巡した)、キャリアの変更を伴うガラケーからスマホへの切り替えを果たしたのである。まあ、慣れないこともあって、戸惑うことも多いが、さすがに小型パソコン、楽しみは広がったと思う。
   ただし本日書きたいのは、そういうことではない。スマホの乗り換えに当たって、感じた違和感についてである。日頃、生命保険の研究などしているから、どうしても、生保販売とスマホ販売を比較してしまうのだ。小うるさいオヤジのたわごと、聞いていただきたい。

違和感その1 乗り換えが当然と考える販売者と顧客
   スマホの世界では、乗り換えが前提、当たり前だ。乗り換え決断に当たっては、いくつかの販売店をはしごした。その結果、なるほど、いままで馴染みのあるキャリアで機種変更するよりも、キャリアを替える方が安いということもあるのかと納得した。“バリバリバンバン”、“のーりのーり乗り換えよ~”と、テレビCMでも、スマホについては堂々と乗り換え勧奨が行われている。“乗り換え割”は各社当たり前である。「2年たてば、別の携帯会社に乗り換えればいいんですよ」と、いくつかの販売店で言われた。前回の契約更新から2年経過していないと解約料を取られるという料金体系と併せて、キャリア間で顧客をキャッチボールすることで儲けているんじゃないかと勘ぐりたくなるぐらいだ。
   これに対し生保販売では、乗り換え募集に強い制限が課されている。きちんとした利益・不利益の説明なしに、あちらの保険を解約して、こちらの保険に乗り換えていただけば、保険料をお安くしますよという話法は御法度なのだ。

違和感その2 一物多価
   販売店に行って驚いたのは、乗り換え割、学割、本体一括ゼロなど、多彩な値引きが並んでいることだ。今回は米国A社のスマホにしようと思っていたので、どこのキャリアも同じ機種を扱っている。なのに、できあがりの料金は、キャリアごと・販売店ごとにマトリックスを書くように違う。もちろん、キャリアの仕事はつながらせることにあるのだからサービスの点で違うのかもしれないが、詰まるところ、料金割引の中心は、機械の本体価格をいくらに設定して、それをどれだけずつ、何年に分けて割り引くかにあるようで、同じ端末という一物に対する価格が、一物二価どころか、個別対応、一物多価の状況になってしまっているように感じられた。
   これと正反対に、生命保険においては、販売店を複数巡れば、その数だけ、同一の商品に異なった保険料を提示されるということはまずない。値引きは特別利益の提供として禁じられている。

違和感その3 説明が少なすぎるんじゃない
   いざ、この店で、このキャリアでこの端末を申し込もうと決め、契約手続きに臨んで、また戸惑った。あまりに説明が少ないのだ。端末の使い方なので販売店はあまり細かく言えないのかもしれない。前回、携帯を契約した時には分厚い説明書があったが、今回は薄い冊子だけだった(これが一般的なのかは知りませんが)。メールの設定なども自力更生があたりまえらしい。サポートサービスに入りませんか、そしたら設定をお手伝いできますと言われたが、そこはがめつく断った。
   生保販売の世界では、販売時の顧客説明がたいへん重視される。顧客の意向確認、顧客への商品概要説明など、きちんとした説明をすることが、ますます求められるようになってきている。

さいごに
   以上、言わずもがなのことかもしれない、いくつかの違和感について述べた。
   スマホのように市場が創造過程にあって活気のある新しい業界と生保のように歴史がある(要するに古くさい)業界を比較するな、販売慣行が違うんだと言われてしまえばそれまでだが、以下、あえて両業界を比較して、こうした販売様式の違いの背景を考えてみたい。
   生保の販売に厳格な規制が課されている主な理由としてあげられるのは、(1)国民の生活保障を提供しているという公共性を帯びた生保業界の使命、(2)(場合によっては詐欺であるかどうかも判断がつかない)目に見えない商品を販売していることからくる加重された消費者保護の必要性、(3)住宅の次に高価な買い物とまで言われる高額性、(4)長期の契約である上、ミスセリングがあった場合にはリカバリーがしにくい点、等である。
   これをスマホと比較すれば、(1)の公共性については、東日本大震災時の状況等を考えれば、通信業界には充分な公共性が感じられ、生保の専売特許ではないと感じられる。(3)の高額性についても、今日では1ヶ月3千円程度の医療保険などもあふれており、これなどはスマホの月利用料金6,000円に満たない。必ずしも生保は高くスマホは安いとは言えない。
   それに対し(2)は両業界の違いとして大きいだろう。生保商品は手で触れられないのに対して、スマホは買ったその日から手に持って楽しむことができる。わからないことや不具合かなと思うことがあれば、あちこちいじり回したり、人に聞いたり、書店に行ってガイドブックを探したりできる。文句があれば、その段階で苦情も言える。国民生活センターによれば、スマホに対する苦情は、もちろん契約に関するものもあるが、それ以上に使用中の不具合等に関するものが多いらしい。
   また(4)の契約が長期かどうか、リカバリーがしやすいかどうかも、両業界で大きな違いがある。生命保険や医療保険は契約期間が極めて長い。また加入時の健康状態が大きくものを言う商品で、加入時期が後にずれるとだいたい条件が悪くなる。だから再契約をしてリカバリーを果たすことは難しい。その点、スマホなら年齢に関係なく交換も可能。なにより機械なので、何年かの耐用年数があり、いずれは買い換えることになる。日進月歩、次々に高機能化し魅力を増した新機種が登場し、買い換えたい気持ちが刺激される世界だ。契約期間と考えられるものは当然短くなる。
   とはいえ、総務省の研究会が本年9月に公表した「スマートフォン安心安全強化戦略」の第II部には、「CS適正化イニシアティブ~スマートフォン時代の電気通信サービスの適正な提供を通じた消費者保護~」という項目が設けられている。スマホの販売等に関しても、行政からの一定の視線が注がれているようだ。生保の厳しい規制も歴史的には、過当競争による弊害がもたらした結果という側面がある。スマホ業界における過当競争が、よけいな規制を必要とすることにならないように、老婆心ながら、祈るものである。
   とは言え、今回、スマホを求めてのショッピングで、新鮮な驚きを感じたのは事実である。スマホの販売担当者は、今日はこのキャリアのこの機種がお得ですよ、キャンペーン中です、と、自らの売りたい意志を隠しもしない。彼らにとって、サービスは価格であり、ボーナスポイントである。結果的に、客にとっても、それがいちばんお得であったりする。
   販売店も顧客も、自らの利益を最大限にすべく、あっけらかんと交渉する世界。これはこれでわかりやすくて爽快でもあったことを付け加えておきたい。

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保険研究部   主任研究員

松岡 博司 (まつおか ひろし)

研究・専門分野
生保経営・生保制度(生保販売チャネル・バンカシュランス等、主に日本生命委託事項を中心とする研究)

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