コラム
2013年01月07日

退職者“地域デビュー” - 高齢期の「きょうよう」と「きょういく」

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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先日、本欄に『退職すると「名刺のない暮らし」が始まる。退職とは社会から退出することではなく、これまで仕事を通じて築いてきた社会との関係性を、今度は個人として再構築する機会だ』*と書いた。現役時代には地域との関係性が希薄だったビジネスパーソン(特に男性)は、退職後の地域の居場所を見つけることが重要になる。それが名刺に替わる自己アイデンティティになるからだ。

私は時々退職者を対象とした講演会に呼ばれるが、そこでよく聞く声は、『朝起きてもすることがない、行く所がない』という、単純だが切実な悩みだ。よく、高齢期を元気に過ごすためには、「きょうよう」と「きょういく」が大事だといわれる。今日すべき用事「今日用(きょうよう)」があり、今日行くべき所「今日行(きょういく)」が必要との意だ。退職後も自宅に閉じこもることなく、「今日用」と「今日行」を実現するために、地域の居場所づくりが重要なのだ。

退職者の地域の居場所をつくる“地域デビュー”を成功させるには、ちょっとした心得が必要だ。過去の経験やスキルを大事にしながらも、それらにとらわれ過ぎないこと。人と話をするときも、元気が出るポジティブな話をしよう。また、地域には多様な価値観を持つ人がおり、たとえ相容れない場合も、頭を柔軟にして聞き上手になること。自慢話をしない、見栄を張らない、年長風を吹かさない、などなど心掛けていると自ずと地域社会における人の輪が広がっていく。

近年、一人暮らしで誰とも話をしない「ひとり社会」が拡大し、高齢期のメンタルヘルス問題が深刻になっている。統計的にはうつ病は男性より女性に多いものの、高齢期の健康問題を動機とする自殺者は男性の方が多い。理由は「男性は相談できる人がいない」ことが大きいようだ。その背景には退職後に新たな人間関係を築けない元ビジネスパーソンが多いことがあるのだろう。「ひとり社会」の高齢期を安心して暮らすために、幅広い仲間とのネットワークをつくり、親の介護方法や苦労話を共有したり、上手な年金生活を送るためのノウハウ・生活情報を得たりすることが役立つ。

退職後は人生の収穫期である。より実り多い人生を送るためには、肯定的な未来志向の話を魅力的に語ることができる幅広い知識・教養と知的好奇心を持続する生涯学習・教育が重要になろう。退職者の「今日用」と「今日行」をかなえる“地域デビュー”とともに、豊かな「教養」と「教育」が大切だ。現役時代に企業で<社員>として輝いたビジネスパーソンが、素敵な“地域デビュー”を果たし、退職後も地域社会で<SHINE(シャイン)>と光り輝いてほしいと思う。


 


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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

(2013年01月07日「研究員の眼」)

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