コラム
2011年07月28日

求められる「なでしこ」目線

桑畠 滋

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直近では、なでしこジャパンのW杯優勝や宮里藍選手のエビアンマスターズ優勝、少し前に遡れば、北京オリンピックの女子ソフトボールチームの金メダル獲得、アジア大会陸上競技における福島千里選手の100メートル、200メートル走の2冠など、近年の国際大会における日本の女性アスリートの活躍には枚挙にいとまがない。かつて筆者は技術レベルの差が昔と比べ小さくなり、最終的には身体能力の差が如実に現れる結果、日本の女性アスリートが世界トップレベルで活躍することは非常に難しいと考えていた。事実、かつて東洋の魔女が世界を席巻し、お家芸と言われたバレーボールでは近年オリンピックで目立った成績を残せないでいる。しかし、ここ数年日本の女性アスリートの活躍を目の当たりにし、自身の認識が過っていたことを痛感させられた。

では、何故日本の女性アスリートがこうも世界トップレベルで活躍できるのだろうか?草食化する男性とは対照的に肉食化する女性が増えているからだろうか。そうではない。不断の努力の結果、選手個人の能力が向上していることはもちろんだが、筆者には、それに加え、指導方法が変化したことにより、女性が持つ共感能力(相手の気持ちを理解する力)を最大限発揮できていることが好結果を生む一因となっているように思えてならない。

昨今、科学的にも男性に比べ女性の方が共感能力に優れているとする研究が進んでいるが、日本の女性がこの能力に秀でている(少なくとも劣っていない)ことは、読者の大半が感覚的に理解できるだろう。つまり、日本の女性アスリートは試合の中で、監督やチームメイトが自身にどのようなプレーを求めているのか、または対戦相手が何をすれば嫌がるのかを敏感に捉え、臨機応変に対応する能力が優れているものと思われる。加えて、典型的な上下関係の下で自身の考えを一方的に押し付けるのではなく、女性アスリートと同じ目線に立ち、選手の意見を取り入れた指導を行う監督が増えていることで、女性が持つ共感能力を練習や試合の中で発揮できていることが国際大会における好結果につながっているのではないだろうか。報道等で再三取り上げられたことであるが、なでしこジャパンをW杯優勝に導いた佐々木監督は、「横から目線」で選手と接することを心がけた事が好結果に繋がったと伝えられている。

女性の持つ共感能力を最大限発揮させることは、中長期的な日本経済の方向性を考えるうえでも重要なカギとなってくる。人口減少、特に15~64歳の生産年齢人口の減少が続く中、今後、日本が成長を続けるためには、より一層の女性の社会進出を進め、労働力を確保していくことに加えて、生産性を向上させることが欠かせない。そして、この生産性を高めるうえで、女性が持つ共感能力を最大限発揮し、従来にない新しい「なでしこ」目線の発想をどんどん取り込んでいくことが不可欠となってくるだろう。政府は6月30日に閣議報告した社会保障・税一体改革案において、子ども・子育て支援を改革の優先事項として明記し、子ども・子育て新システムの制度実施に伴い、幼保一体化などの機能強化を図ることや、0~2歳児保育の量的拡充・体制強化等により待機児童の解消を図ることを通して、女性の就業率を2009年の66%から2020年には73%まで高めることを計画しているが、今後は、数の増加に加え、女性の共感能力を最大限発揮させる組織マネジメントがこれまで以上に求められることとなるだろう。
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