コラム
2011年07月19日

スマートフォン市場が拡大してもパケット定額制は続くの?

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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最近、電車で、こんな話し声を耳にした。

「最近、電車でケータイ出すの、なんかはずかしくなってきた。まだスマホじゃないからさ。」

30歳前後の会社帰りの男性だ。

その気持ちは分からないではない。スマートフォンは、まさに20代後半から30代前半を中心に利用が拡大しており1、利用者はすでに1,000万人に迫っている2。また、携帯電話各社は今年度発売する機種の半数以上をスマートフォンにする方針であり3、その勢いは加速するばかりである。

ところで、スマートフォンではインターネットを利用するために、パケット定額制プランに加入する契約者が大半だろう。

実は、このパケット定額制だが、米国では廃止の流れがある。iPhoneをはじめとしたスマートフォンの爆発的な普及や映像コンテンツの高解像度化などによって、データ通信量が増大し、通信帯域がひっ迫したためだ。まず、米大手通信会社のAT&T Mobilityが2010年6月に従量制へ移行し4、2011年7月に最大手のVeriozn Wirelessも追従したことから5、その流れは決定的になった。

日本では、現在、各社ともスマートフォンの利用拡大に懸命であり、しばらくはパケット定額制がなくなることはないだろうが、すでに同じ悩みを持ち始めているかもしれない。

また、このデータ通信トラヒックの問題に加え、日本では1契約者あたりの月々の携帯電話料金においてパケット通信料の割合の上昇が続いていることも留意せねばならない。

携帯電話事業者の収益性を表す指標の1つにARPU(Average Revenue Per User)がある。これは、1契約者あたりの月間収入を指すもので、各社の決算では総合ARPUのほか、音声ARPU、パケットARPUとして分けたものも報告されている。

例えばNTTドコモのARPUは図1(a)のように推移している。
携帯電話事業者のARPUの推移
総合ARPUと音声ARPUは減少傾向、パケットARPUは増加傾向にあり、2011年3月期に初めて音声ARPUをパケットARPUが10円上回っている6。また、2012年3月期には、その差は450円へ拡大すると予測されている。

なお、iPhone3Gの発売によってスマートフォン市場を先行していたソフトバンクモバイルでは、すでに2010年3月期の四半期決算にて、音声ARPUとパケットARPUは逆転している(その差390円、図1(b)は年度末決算の値)7。ちなみにKDDI(au)では、まだ逆転はみられないが、NTTドコモと同様の推移であり、2012年3月期には300円の差をつけて逆転すると予測されている8

つまり、各社とも、収入に及ぼすパケット通信料の影響がますます大きくなる中では、スマートフォンの利用拡大によってデータ通信トラヒックが増大し、現在のネットワークでさばききれなった場合、事業への影響は深刻だ。

一方で、NTTドコモやKDDIではLTEやWiMAXなど、より利用効率の高い次世代通信サービスを提供し始めており、増大するデータ通信トラヒックを分散させることが可能だ。しかし、これらの通信整備には莫大なコストがかかっており、第3世代の通信ネットワークからの移行もスムーズにいくと限らないため、そう簡単には解決できないかもしれない。

とはいえ、1人のスマホユーザーとしては、携帯電話事業者の尽力に期待し、パケット定額制をぜひとも残しておいてほしいものである。
 
1 アウンコンサルティング株式会社, “日本国内におけるスマートフォン利用動向調査(2011年2月)~スマートフォンユーザーの5割がビジネスマン世代に集中~”(2011/2/23)
2 株式会社MM総研, “スマートフォン市場規模の推移・予測(11年7月)” (2011/7/7)
3 日本経済新聞, “スマートフォン、5割以上発売 通信各社の今年度新機種”(2011/5/7)
4 AT&T Inc. “AT&T Announces New Lower-Priced Wireless Data Plans to Make Mobile Internet More Affordable to More People.”(2010/6/2)
5 Reuters “Verizon to eliminate unlimited data plans.”(2011/7/5)
6 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ, "2006年度~2010年度決算短信”
7 ソフトバンク株式会社, “2006年度~2010年度決算短信”
8 KDDI株式会社, “2006年度~2010年度決算短信”
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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