コラム
2011年07月08日

介護職による医行為の実施  ~引き換えのリスクは意外と大きい~

  阿部 崇

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先月成立した介護保険改正法に合わせて、社会福祉士法と介護福祉士法の一部改正が行われた。それによって、これまで形式的には“医療職ではない介護職が行うことは違法である”と整理されてきた喀痰吸引(口腔内や咽喉にある痰を器具で吸引)や経管栄養(口からの食事が困難となり胃に管を通して栄養摂取する場合の補液や管交換など)の2種の医行為について、一定の条件の下で業務として介護福祉士等が実施できるようになる。

さて、この業務範囲の拡大については関係するそれぞれの立場によって賛否があるところだろうが、ここでは、上の結論に至ったプロセス、喀痰吸引や経管栄養の2つの医行為をどのように介護職の業務として法的に整理したかに着目したい。
   この結論を得るためには2つの方法論があった。1つ目は、「医行為の定義を修正する方法」、つまり、喀痰吸引等は日常生活に必要な継続的・管理的な性格の強い行為であって、医療職による対応を必須とせず介護職が業務として行うことができる、という考え方である。2つ目は、「介護職の業務範囲を修正する方法」、つまり、喀痰吸引等はあくまで医行為のままとしつつ、一定の条件の下で介護職が業務として行うことができる、とする考え方である。
   今回は後者の方法が採られたのであるが、「医行為は医療職のみが業務として行うことができる」という大原則の例外をルール化するにあたって、同じ結論を導くとしても適切な方法論であったかは疑問である。もちろん、医療処置発生率等の基礎的調査や大々的に実施したモデル事業、それらを踏まえた度重なる検討会など、必要なプロセスは経たのかもしれない。しかし、医行為の定義にも踏み込まず、医療職の業務範囲を規定する保助看法(保健師助産師看護師法)にも触れず、社会福祉士法と介護福祉士法の改正のみで対応した点は、急場しのぎの安易な方法との印象がある。
   今後半年間で整理される具体的な運用ルール次第ではあるが、「一定の条件の下で」に含まれるであろう“医師の指示”一つとってみても、「誰に対して」「誰が行う」「どの期間の」「どの部分まで」の指示を「誰宛に」「どの方法で」出すのか――、その内容によっては介護職のジレンマは実質的には解消されない可能性もある。他方で、喀痰吸引や経管栄養を要する高齢者の無条件の受入、緊急時や合併症ある場合などの危険を伴う場面での判断と対応、万一発生した場合の医療事故に対する責任など、“医行為を行えるようになった”介護職や事業所・施設が当然に引き受けなければならなくなるリスクもある。

介護職のジレンマは、医療職でなくても十分対応しうる “比較的危険度の小さい”喀痰吸引等の一部(例えば口腔内の吸引)であっても杓子定規に「医行為だから違法」と扱われてきたこと、にあるのだろう。とすれば、がんじがらめの細かい要件の中で、その割には大きなリスクと併せて、「医行為のまま」、つまり、危険度の高い部分(例えば咽喉奥の吸引)も含めて業務範囲とするよりも、調整や整理が多少困難であっても、“比較的危険度の小さい”部分を段階的に医行為から除外していく形(上記1つ目の方法論)を採るべきではなかったか。

解消されるジレンマと引き換えに、介護職が負わなければならない“医行為としての”喀痰吸引と経管栄養に特有のリスクは意外と大きい。そしてその準備期間は意外と短い。

阿部 崇

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