コラム
2010年08月09日

高齢者所在不明問題が問いかける3つの課題

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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東京都の最高齢男性がすでに30年以上前に死亡していた事件を契機に、全国各地に高齢者の所在不明問題が拡がっている。100歳を超える長寿高齢者のなかに所在が確認できないケースが多くあるのだ。この問題の背景には世界の高齢化の最先端をいく長寿国・日本における“高齢者の社会的孤立”という重大な課題がうかがえる。

課題解決に向けた方策としては、第一に、家族のあり方が大きく変わり、新たな社会システムが必要になっている。これまで祖父母とその子ども世帯が同居する3世代家族も珍しくなかった時代には、介護や育児など家族が有するインフォーマルな機能が大きな役割を果たしていた。しかし、戦後は親と子どもからなる核家族が標準世帯となり、2020年にはすべての都道府県で単身世帯が最多の世帯類型になると推計されており、既存の家族機能を社会が代替する仕組みが必要になっている。すなわち、これから本格的に訪れる「ひとり社会」を支える社会制度を世帯単位から個人単位へ変えていくことが必要になっているのだ。「ひとり社会」では肉親の関係性も大きく変わる可能性があり、今回の高齢者所在不明問題でも、たとえ家族がいてもその所在が分からないケースが多数報告されている。

第二に、近代化にともなう都市化の影響で地域社会が大きく変容し、従来の地域の持つコミュニティ機能が衰退し、新たな地域づくりが必要になっている。これまで農村社会では住民同士の関係性が強かったが、都市部では匿名性やプライバシー重視を志向するライフスタイルが定着し、地域コミュニティが衰退してきた。また、大都市を中心に集合住宅が増加しているものの隣人との関係性はあまりなく、大都市近郊のニュータウンなどでは「孤独死」も発生している。IT(情報技術)化により人同士のパーソナルネットワークは発展している反面、そこからこぼれた人は孤立を深め、地域のつながりは薄れている。このように現代社会では人と人とのつながりが制約要因として受け止められ、自治会や町内会の加入率も低下している。しかし、災害や犯罪のリスクを軽減し、これからの超高齢社会を安全に安心して暮らしていくためには、地域コミュニティの再生が不可欠なのである。

第三に、経済格差の拡大による貧困問題の解消が必要だ。今回の高齢者所在不明問題の背景には、経済的な困窮状況からホームレスになったり偽名で暮すことになったりして、家族や社会との関係性を絶った高齢者も多いと思われる。昨年、厚生労働省が発表した相対的貧困率は15.7%と、日本は先進諸国のなかでアメリカに次いで高くなっている。今日では若者の非正規雇用が増大し、安定した経済基盤が築けないために社会から排除される人も多い。その結果、結婚したくても結婚できない人が増え、近年では男性の生涯未婚率が急上昇している。そのような一人暮らしの人々が歳を重ね、中高年となり、やがて高齢者となって社会的孤立につながっていく。このような世代を超えた貧困の連鎖を断ち切る雇用政策や生活保障が求められているのである。

今回の高齢者所在不明問題は、21世紀の日本社会が解決しなければならない重要な課題を提起している。この問題に関する連日の新聞報道の同一紙面には、大阪市のマンションで起きた幼児遺棄事件の記事が掲載されていることがよくあった。いずれの事件も、少子高齢社会の家族のあり方、地域コミュニティのあり方、経済格差による貧困問題の解消、という全く共通した深刻な課題がその背景にあるのではないだろうか。

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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

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