コラム
2009年04月03日

電車の遅延アナウンスに思うこと

金融研究部 チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任   井出 真吾

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毎年のことだが、4月になり朝晩の電車で新社会人や新入生など、真新しいスーツや制服がまだ馴染んでいない人を多く見かける。彼らが夢や希望に満ち溢れているかどうかはともかくとして、電車のトラブル(故障や事故)は通勤・通学の大敵だ。

日本の鉄道は運行時刻の正確性が世界一と言われるが、残念ながらトラブルはなかなか無くならない。日中ならトラブルが生じても構わないということではないが、特に多くの人が利用する朝晩の事故や故障は困り物だ。

先日も筆者が利用する路線で朝のラッシュ時間帯にトラブルがあった。幸い15分ほどで運転が再開されたので、普段とほぼ同じ時間に電車に乗ることができたが、まもなく、「この電車は○○の影響で約20分ほどの遅れが出ています」という車内アナウンスがあった。この“約20分ほど”について二点、思うところを述べたい。

一点目は、“20分”が何を指すのかである。言うまでもなく、車内アナウンスは「当該電車が定刻(ダイヤ)より20分遅れている」ことを意味している。例えば、定刻7時00分発の電車が7時20分頃に発車しているということだ。鉄道会社(の運行管理者)にしてみれば、“定刻より何分遅れているか(及び、いかにしてダイヤ通りの運行に戻すか)”が気になるのかもしれないが、ほとんどの乗客にとっては、“目的駅までの所要時間(ノロノロ走るのか、普段通りのスピードか)”の方が大きな関心事ではなかろうか。

大都市圏のラッシュ時間帯は数分間隔で次々と電車が運行されているので、いつもと同じ時刻に電車に乗り、更に目的地までの所要時間も普段どおりであれば、自分の乗っている電車が定刻より遅れているかは関係ない。社会人なら始業時刻や大事な商談・会議、学生の場合は授業やクラブ活動に遅れそうなら、同僚や友人に連絡したいところであろうが、所要時間が分からないことには連絡すべきか否か、別ルートで目的地に向かうべきかといった判断すら難しい。

実際、「電車が遅れている(ダイヤが乱れている)」と、“念のため”電話で連絡している人は見かけるが、「何分くらい遅れそうか」を伝えている人を見たことはない。個人的には、トラブルが生じた際に“運転再開見込み”をホームページや駅のアナウンス等で知らせてくれるようになったのは有り難いが、“ダイヤから何分遅れているか”は、利用者にとって情報としての価値は全く無いと思っている。

一方、道路交通情報でも、以前は渋滞の先頭地点と渋滞の距離しか教えてくれなかったが、今は、「5Kmの渋滞、通過に30分かかっています。」などと、“所要時間”も教えてくれる。しかも道路情報は定点カメラで撮影した情報を元にシステム的に所要時間を計測し、自動音声で案内しているようだ。

無数のドライバーのそれぞれの意思で動いている自動車と違って、列車の場合は鉄道会社が完全に運行をコントロールしているのだから、より所要時間を把握しやすいと思うのは素人考えだろうか。無論、「1分単位の正確な情報を提供せよ」などと言うつもりは無いので、おおよその所要時間を乗客に知らせてもらえないものだろうか。

より一層、誰のための情報か、その情報が受け手にとってどのような意味を持つかということに配慮すれば、情報の価値(=サービス・レベル)と利用者の満足度が自ずと高まり、“念のため”の電話連絡など社会コストの引き下げにも貢献できるのではないだろうか。


二点目は、情報の価値云々というややこしい話ではなく、単に日本語の使い方だ。つまり、“約20分ほど”は、“約”と“ほど”の重ね言葉である。『大辞泉』(小学館)で調べてみると、“約”とは『数量を大まかに数えるさま。おおよそ。だいたい。』とある。同じく、“ほど”は『ある広がりをもった時間。おおよその時間・時刻』とされており、同義だ。筆者が利用している路線や他の鉄道会社に限らず、仕事の場面でも“約○○ほど”を見聞きすることが少なくない。

言葉は時代とともに変化すると言われ、“ら抜き言葉”(「食べれる」、「見れる」など)や、組織名の“さん付け”(「○○商事さん」など)が増えつつあるようだ。個人的には“○○商事さん”が最も違和感が小さいが、いずれ“約○○ほど”にも慣れてしまうのだろうか。

因みに、Microsoft WORDで“約20分ほど”と入力し、「ツール→文章校正」を選択すると、重ね言葉であることを教えてくれる。“ら抜き言葉”も同様だ。一方、“○○商事さん”は許容されているようだ。もしご興味があればお試しあれ。

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金融研究部   チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任

井出 真吾 (いで しんご)

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株式市場・株式投資

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