コラム
2007年06月28日

経済統計は誰のものか

経済研究部 経済調査室長   斎藤 太郎

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筆者がこの仕事を始めた10年ほど前、経済統計はごく限られた人のものであった。直接利用するのは、エコノミストやマスコミなど一部の人だけで、一般の人は新聞、テレビなどを通じて、その結果を間接的に知ることがほとんどだった。

 当時、我々のような調査機関の多くは、相当な情報料を払って通信社から経済統計を購入しており、日銀短観、GDP速報など極めて重要度の高いものは、統計の作成機関まで直接出向いて公表資料を入手することもあった。統計入手にかかるコストは、現在とは比べものにならないほど大きなものであった。

インターネットの普及により、今では統計作成機関のホームページにアクセスすることで、誰もが容易に、しかも公表とほぼ同時に、経済統計を入手することが可能となった。もちろん、100%の人がインターネットを利用できる環境にあるわけではないので、情報の格差は依然として存在するが、IT化の進展が、経済統計を特定の人のものではなく、広く国民にとってより身近なものにしたことは確かだろう。

経済統計の利便性は飛躍的に向上したが、公表のあり方については課題が多い。例えば、統計によっては公表時刻を過ぎてもなかなかホームページに掲載されないことがある。通信社のニュースで公表結果が流れているにもかかわらず、その統計を直接確認することができないということも少なくない。

 今や機関投資家に限らず、個人投資家も経済統計を判断材料として資産運用を行う時代である。こうした中、一部の人だけが早めに統計情報を入手できるという状況は決して好ましいものではない。アクセスの集中によりサーバーの応答が鈍くなるというやむを得ない部分があることも事実だが、それ以外の要因による掲載の遅れは解決できる問題であるはずだ。

また、統計作成機関によって、ホームページに掲載される情報量に大きな差があることも問題だ。公表データの全てが掲載される統計が増えている一方、公表データの一部しか掲載されないものもある。経済統計は公共財であるとの観点に立てば、個人情報や報告者の不利益になる情報以外は全て開示するという原則を確立すべきであろう。

新聞報道等では、統計の結果とともに統計作成官庁による基調判断が掲載されることがあるが、公表資料ではそのような基調判断が見当たらないものもある。ある官庁に確認したところ、統計公表時の基調判断は正式なものではなく、マスコミからの要望に応えて参考として述べているということである。

 情報提供の公平性の観点から考えても、一部の人にしか提供されないまぎらわしい情報発信はやめたほうがよい。

日本の経済統計は、主に政府が政策を実施する上で必要な業務資料として作成されてきたという歴史的背景もあって、国民の利用という観点は軽視されがちであった。

 しかし、本年5月に全面改正された統計法の基本理念では、「公的統計は、広く国民が容易に入手し、効果的に利用できるものとして提供されなければならない」と明示された。経済統計に改善の余地が多いことは確かだが、幅広く国民に利用されるべき公共財であるという意識が高まってきたことは、望ましい方向と言えるだろう。

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経済研究部   経済調査室長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

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