コラム
2006年07月14日

ゼロ金利解除:影響と今後の利上げシナリオ

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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今回の変更の内容
7月14日の政策決定会合で、ゼロ金利政策の解除が決定された。国内景気が持続的な拡大をたどる公算が大きく、懸念材料だった米国経済も、日本経済に大きな影響を与える可能性が少ないとの見方が政策委員会の大勢を占めたようだ。短期金利の誘導目標をゼロから年0.25%程度、公定歩合も現行の年0.1%から0.4%に引き上げた。利上げは00年8月以来(速水総裁下でのゼロ金利解除以来)、約6年ぶりとなる。
補完貸付については2003年3月以降、利用日数に関して上限を設けない臨時措置を実施しているが、この措置は当面継続することとなった。
また、現在月額1.2兆円実施している国債買入は維持される方針も示された。

0.25%利上げの経済への影響
今回の0.25%の利上げは、それ一回だけであれば経済へのマイナスインパクトは小さい。当研究所のマクロモデルでは、短期金利1%の引き上げで実質GDPを1年目:0.16%、2年目:0.32%引き下げる。CPIについては0.1%にも満たないマイナス影響しかない。今回は0.25%の引き上げなので、上記影響の1/4程度で景気実勢自体が変るということはない。ただし、市場では年度内あと1回程度の利上げと非常に利上げピッチが緩やかというのがコンセンサスになっているが、解除後、市場が急ピッチの多段階の利上げを織り込みにいき、長期金利の上昇や円高といったことが起これば引締めの効果は累積的に大きくなる。
この点、日銀としては過剰流動性の縮小は急ぎながらも、景気への過度のマイナスインパクトを大きくしないような緩やかな利上げ、緩やかな長期金利の上昇を実現するという難しい舵取りが今後要求され続けることになる。

経済全体としては上記の結果であるが、長年利子所得の減少を強いられてきた家計部門にとっては、少ないながらも久々に金利上昇のメリットを享受できることになる。
筆者推計によれば国民経済計算年報(2004)をもとに、1%金利上昇の影響を試算すると、家計部門全体では預金金利の上昇などにより受取利子が7.9兆円増加する。一方住宅ローンなどの支払利子は3.3兆円増加し、ネットで4.6兆円の純利子増加となる(注1)。今回の0.25%利上げではこの1/4の約1.15兆円となる。
この1.15兆円を一人当たり(人口1.2億人とすれば)にすると、9600円程度となる。(ただしこれは平均であって、資産を多く有している人などの状況を加味すれば一般的な状況としてはかなり多いイメージとなるかもしれない。)

今後の利上げの焦点
昨今の報道では、消費税の引き上げが2008年から2009年にずれ込みそうで、金融政策上は2006-2008年度にかけて自由度が高まりそうだ。日銀としてはできるだけ早期に市場に存在する過剰流動性を縮小させ、バブルの再来を回避させたいというのが本音だ。
ただ、物価が急激に上昇することは考えにくく、(一部でバブルを連想させるような不動産貸出の増加などがみられるとはいえ)バブル的な状況もない中、過去の利上げのような急激なピッチはほぼ不可能である。日銀としては利上げが可能なときにはできるだけ上げ、2008年にかけて中立金利とされる2.5%程度への引き上げを実現させたいところだろう(単純に2006年10-12月期から2009年1-3月は、10四半期あり、1回の利上げで0.25%刻みで2.5%に誘導水準を上げるとすれば、9回必要)。
 

 

 
日銀からは次の利上げ等を意識した発言は当面控えられるだろう。その点、市場の2回目以降の利上げイメージは当面振れる可能性がある。イベント的には、9月の総裁選、9月短観、10月末の展望リポートなどが控える9月から10月にかけて、日銀が次回利上げを模索するチャンスとはなりそうだ。
ただし、当研究所では、2006年度中の次の利上げ時期は、日本の成長率ピッチの鈍化が見込まれることや、CPIの上昇率がそれほど大きくならない状況下で、かつ新政権発足後、政策運営が不透明となる中で、じっくりと間合いを計る形で1-3月期と現段階では予想している。
2007年度については、ほぼ米国の金融政策次第と読む。米国が利下げに転じるようなことがあれば日銀はまったく動けない。米国が利下げという状況では、米国経済が潜在成長率をかなり下回る状況になっている可能性が高い。さらにその状況で日本が利上げを実施すれば、急激な円高を誘発しかねない。金融政策は基本的にはしばらく様子見ということになるはず。米国経済の復活、日本への波及などその後の展開を見極める期間が必要になってくるだろう。
当研究所では米国の利下げの開始は来年の4-6月期以降と見ている。それまでは、インフレ率もある程度高く、低い成長ながら底割れするといったことはなく、悪く言えばだらだらとインフレも成長も続くという見方であり、そのため日銀の利上げは、半年に1回実施できればいいほうだというイメージを持っている。

 
利上げ後の市場イメージ

(長期金利)
市場では6月20日の福井総裁の「早めに、小刻みに」という発言で、6月末時点では、「7月、遅くとも8月の利上げ、さらに年度内もう一回の利上げ」を織り込みにいった。
5月時点の、四半期に1回程度の利上げを織り込みにいった局面に比べれば、市場が織り込んでいる利上げペースは緩やかなものとなっている。
早期利上げを織り込ませつつ、先行きの利上げペースはゆっくりというベストのシナリオをうまく市場に浸透させている。ゼロ金利が解除された直後、長期金利が急上昇するというリスクは低いだろう。
ただし、今回利上げに際して「設備投資の上触れリスク」を強調しているため、解除後、生産・設備関係の統計で強いものが出るようだと、5月初めのように四半期に1回程度の連続利上げを織り込むような展開から、秋口にかけ金利が上振れする可能性が高まろう。しかしその後は、徐々に年度後半成長率が鈍化し、CPI上昇率の拡大がそれほど大きくならない、との見方が市場で強まり、年度内あと1回の見方に修正され、長期金利は年度末には2%を少し超える水準になると予想する。

(円ドルレート)
円ドルレートは、日本の利上げで日米金利差が縮小することは円高要因となるが、米国で依然追加利上げ観測が残る限り円高のスピードは緩やかにとどまる。
ただし秋以降米国の利上げが実際ストップし、景気減速の中、市場で利下げ期待が台頭する可能性が高く、円高ピッチが上昇すると見込む。年度末105円程度と見ている。
 
(注1) 今年の経済財政白書では金利1%の上昇で家計部門で純利子所得が6.2兆円増加するとの試算が公表される見込み
 
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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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