NEW
2025年08月21日

増え行く単身世帯と消費市場への影響(2)-家計収支から見る多様性と脆弱性

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

文字サイズ

1――はじめに~家計消費は2025年頃をピークに減少、2050年には約15%減少の見通し

前稿1では、日本の世帯構造の変化を捉え、家計消費額の将来推計を行った。2020年では単身世帯は全体の38.0%だが、2050年には44.3%に達する見通しである。かつて単身世帯の中心は若年男性だったが、現在は高齢女性や壮年(35~59歳)男性が多く、2050年には60歳以上が過半数を占める構造に変わる。

家計消費の面では、2024年では二人以上世帯が全体の7割強を占め、単身世帯は3割弱にとどまっている。しかし、2040年頃には二人以上世帯が7割を下回り、単身世帯が3割を超える見通しだ。さらに今後は、世帯当たりの消費額が比較的少ない単身世帯や高齢世帯の増加により、国内家計最終消費支出は2025年頃をピークに減少に転じ、2050年にはピーク時より約15%減少すると予測される。

本稿では、総務省「家計調査」を用いて、単身世帯の家計収支や消費内訳について、二人以上世帯との比較を交えながら分析する。可処分所得については、統計上の制約から60歳以上の勤労者世帯の公表値がないため、若年(35歳未満)および壮年(35~59歳)の勤労者世帯を対象とする。一方、消費支出については、若年・壮年の勤労者世帯に加え、60歳以上は勤労者と無職世帯を合わせた全体を対象にする。なお、本稿では字数の都合上、消費内訳の大分類までにとどめ、品目別などの詳細については次稿で分析する。
 
1 久我尚子「増え行く単身世帯と消費市場への影響~世帯構造変化に基づく2050年までの家計消費の推計」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/6/12)

2――単身世帯の家計収支

2――単身世帯の家計収支

1|可処分所得~物価上昇によりにより実質減少も、若年女性は就労環境改善で増加、壮年女性に脆弱性
まず、勤労者世帯の可処分所得について見ていく。総務省「家計調査」によると、2024年では単身世帯のうち勤労者世帯の割合は全体で49.1%である。これを年齢階級別に見ると、35歳未満(以下、若年世帯)では男性96.5%、女性97.8%、35~59歳(以下、壮年世帯)では男性77.1%、女性83.4%、60歳以上(以下、高年齢世帯)では男性16.1%(うち65歳~では10.6%)、女性14.0%(同9.8%)となっている。また、二人以上世帯のうち勤労者世帯の割合は全体で62.2%2である。

2000年以降の勤労者世帯における1カ月間の可処分所得を見ると、若年女性では増加傾向を示す一方、その他は単身世帯でも二人以上世帯でも、おおむね2015年頃まで減少した後、増加に転じている(図表1)。
図表1 単身勤労者世帯と二人以上勤労者世帯の1カ月間の可処分所得の変化
特に注目すべきは若年女性の動向である。2000年に対して2024年では名目値で6万8,510円の増加、実質増減率でも13.0%の増加となっている。背景には、近年の女性の活躍推進政策等による就労環境の整備や、人手不足を背景とした若年層の雇用改善があげられる。その結果、若年世帯では男女の可処分所得差が大幅に縮小し、2000年では男性より4万6,277万円少なかったが、2024年では3,065円差にまで縮まっている。

一方、2000年から2024年にかけて消費者物価指数が14.1%上昇しており3、若年女性以外では実質的に減少している。特に壮年男性での減少が目立ち、2024年の対2000年実質増減率は▲17.0%、名目値でも2000年の水準を下回っている(▲2万237円)。

2024年の単身勤労者世帯の可処分所得を性・年齢階級別に見ると、壮年男性(35万9,002円)>若年男性(30万8,376円)>若年女性(30万5,311円)>壮年女性(26万8,831円)の順となっている。ここで注目されるのは、2019年までは壮年女性が若年女性を上回っていたが、その後逆転したことである。これは若年女性の就労環境改善が、単身世帯の収入構造に変化をもたらしていることを示唆している。

また、2019年に対する2020年の可処分所得を見ると、壮年女性でのみ減少している。コロナ禍では、非正規雇用者など不安定な労働環境にある層や、飲食をはじめとした対面型サービス業など苦境に立たされた業種の従事者で雇用環境悪化の影響が比較的大きかった4。また、正規雇用者の中でも、管理職層を含む高収入層と比べて相対的に収入水準の下がる一般社員の方が影響は大きい傾向もあった。つまり、壮年女性では他層と比べて、非正規雇用者など雇用環境悪化時の影響を受けやすい層が多い様子がうかがえる。このことは、単身世帯内でも年齢・性別により雇用の安定性に格差があることを物語っている。将来、社会的危機や景気後退が再び生じた際には、こうした層がより深刻な所得減少や雇用喪失に直面する可能性が高く、結果として高齢期の貧困リスクにもつながりかねない。こうした脆弱性の違いを踏まえ、雇用の安定性確保やスキル向上支援に加え、就労継続・再就職の後押し、老後の生活基盤強化を含む、きめ細かな支援策の検討が求められる。

なお、二人以上勤労者世帯では単身勤労者世帯と比べて世帯当たりの有業人員数が多いため、全体でも同じ年齢階級同士で比較しても、二人以上世帯の可処分所得の方が大幅に高い水準にある。
 
2 世帯主の職業が無職以外の世帯
3 総務省「消費者物価指数」によると、持家の帰属家賃を除く総合:2000年=96.4→2024年=110.0(2020年=100)
4 久我尚子「コロナ禍1年の仕事の変化~約4分の1で収入減少、収入補填と自由時間の増加で副業・兼業も」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2021/4/20)
2|消費支出~2020年を底に反転するも、若年男性と壮年女性は回復遅れ
消費支出については、ほぼ皆が勤労者である若年世帯と8割前後が勤労者である壮年世帯は勤労者世帯の値を、全体と60歳以上については勤労者と勤労者以外を含めた全体の値を用いて分析する。

2000年以降の勤労者世帯の消費支出は、若年男性と壮年女性を除き、いずれもコロナ禍の2020年に最も低い水準となっており、足元では増加に転じている(図表2)。しかし、全体的に消費支出は可処分所得の増加ほどには回復していない。実質増減率で見ると、唯一増加していた若年女性でも、可処分所得は+13.0%に対して消費支出は▲4.6%にとどまっている。この結果、全体的に消費性向は低下している。
図表2 単身世帯と二人以上世帯の1カ月間の消費支出の変化
一方、若年男性と壮年女性では、既に消費行動が平常化しており、2024年でも2020年の消費支出額をやや下回っている(若年男性▲1,206円、壮年女性▲1,412円)。この要因の1つには、2020年に対する2024年の可処分所得の増加幅が、他層と比べて小さいことがある(若年男性+7,999円、壮年女性+7,279円、その他は2万円前後、最大は若年女性の+25,689円)。

特に壮年女性では、可処分所得の変動が直接的に消費行動に影響している様子がうかがえる。2023年では消費支出が2020年を上回っていたが(+7,672円)、2024年は可処分所得の減少(▲10,861円)に伴い消費も抑制されている。これは、壮年女性の家計に余裕が少なく、収入変動に対して消費が敏感に反応することを示しており、前章で指摘した雇用面での脆弱性が消費行動にも影響している様子がうかがえる。

全体的な消費性向低下の背景には、複数の要因が重なっている。具体的には、物価高による節約志向の高まり、コロナ禍後の生活様式や価値観の変化による外食・交通・被服費などの減少、将来への不安を背景とした貯蓄志向の高まり、そしてデジタル化の進展によって低コストで質の高いサービスを利用できるようになったことなどが、支出の伸びを抑える方向に作用していると考えられる。

2024年の単身勤労者世帯の可処分所得を性・年齢階級別に見ると、若年女性(勤労者)(20万9,962円)>壮年男性(19万4,379円)>壮年女性(18万3,274円)>高齢女性(16万1,739円)>高齢男性(15万4,745円)>若年男性(15万1,119円)の順となっている。これまでは、壮年男女の消費支出額が多い傾向があったが、近年の女性の就業環境改善や賃金水準の上昇、人手不足を背景とした雇用機会の拡大などにより、若年女性の可処分所得は大きく伸びている。その結果、2024年では可処分所得の伸びが目立つ若年女性が首位に躍り出ている。これは、若年女性の経済力向上が消費の拡大にも結びついていることを示すものであり、単身世帯の消費市場における新たな牽引役として注目される。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年08月21日「基礎研レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

お知らせ

お知らせ一覧

【増え行く単身世帯と消費市場への影響(2)-家計収支から見る多様性と脆弱性】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

増え行く単身世帯と消費市場への影響(2)-家計収支から見る多様性と脆弱性のレポート Topへ