2025年07月10日

ドイツの生命保険監督を巡る動向(2)-BaFinの2024年Annual ReportやGDVの公表資料からの抜粋報告(生命保険会社等の監督及び業績等の状況)-

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1―はじめに

前回のレポートでは、ドイツの保険監督官庁であるBaFin(Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)の2024年のAnnual Report(Jahresbericht)1の「スポットライト(Spotlights)」の章等に記載されている項目の中から、主として生命保険の監督に関連するトピックの内容を抜粋して、それらのトピックに関する状況について報告した。

今回のレポートでは、Annual Reportの「I.スポットライト」の「2-2.リスク分類と(特別)検査」及び「II.企業の監督」の「2.保険会社及び年金基金」等、及びGDV(ドイツ保険協会)の公表資料等に基づいて、ドイツの生命保険会社等の監督及び業績等の状況について報告する。なお、以下の図表は、BaFinのAnnual ReportやGDVの公表資料からの図表に基づいて、筆者が作成している。

2―保険会社のリスク分類と検査結果

2―保険会社のリスク分類と検査結果

BaFinのAnnual Reportの「Ⅰ.スポットライト」の「2-2.リスク分類と(特別)検査」における記述に基づくと、以下の通りとなっている。
1|保険会社のリスク分類
BaFinは、監督下にある保険会社と年金基金をリスククラスに分類している。これは比例監督とリスクベースの監督の基礎となるものである。

これらの会社について、以下の図表が、2024年のリスク分類の結果を示している(図表番号は、出典資料に従っている、以下同様)。

分類において、BaFinは会社又はグループの質を考慮に入れており、これは、「財務状況」、「財務業績」、「ガバナンス体制」、「将来の存続可能性」及び「適格保有株式保有者」2の要素に基づいている。一方、監督は、各会社のソルベンシー又は流動性危機が金融セクターの安定性に及ぼす潜在的な影響を考慮に入れている。

グループの評価において、BaFinは「適格保有株式保有者」の代わりに「グループ固有の要素」というサブセクションを使用し、特定の企業の分類結果だけでなく、定性的及び定量的なグループ固有の情報も提供している。

評価システムは、個々の基準に対する評価を合計して、「A(高品質)」から「D(低品質)」からなる4段階の総合評価を作成している。
 
2 「適格保有(qualifying holding)」は、株式や議決権の10%以上を占める場合、又はその他の関連する臨界値(20%、30%、50%)を超える場合、経営陣(の過半数)を選任する権利を取得することや経営に大きな影響力を持つその他の手段を有している場合が該当している。
2|リスク分類の結果
2024年12月31日時点のデータに基づく評価は、以下の通りとなっている。

保険会社のリスク分類は、2024年に「A」(10.2%)、「B」(67.0%)、「C」(21.6%)(2023年は、「A」(9.2%)、「B」(66.9%)、「C」(22.8%))となっている。
表4:2024 年と2023 年の保険会社と年金基金のリスク分類結果
また、保険グループのリスク分類は、2024年に「A」(1.9%)、「B」(81.1%)、「C」(17.0%)(2023年は、「A」(1.8%)、「B」(78.6%)、「C」(19.6%))となっている。
3|保険会社の検査
BaFinは、保険監督における検査計画についても、リスクベースのアプローチを採用しているが、リスク分類の結果に加え、特に、監督対象会社で検査が最後に実施された時期を考慮している。さらに、例えばITに関する検査など、アドホックな検査やトピックに関連した検査を実施している。

2024年、BaFinは保険監督分野の会社に対して、合計75件の検査を実施している(2024年は74件)が、そのリスククラス別の検査の内訳は、以下の図表の通りとなっている。
表5:2024 年と2023 年の保険会社及び年金基金に対する検査(リスククラス別)

3―保険会社と年金基金の監督に対するBaFinの具体的な対応

3―保険会社と年金基金の監督に対するBaFinの具体的な対応

BaFinのAnnual Reportの「II.企業の監督」の「2.保険会社及び年金基金」等における記述に基づくと、BaFinは、2024年において、以下のような新たな監督実務の原則等の公表や監督上の対応を行っている。
1|監督実務の新たな基盤
1.保険監督法に基づく規則を改正する第六規則3
2024年7月24日にドイツ連邦法官報に掲載されたこの規則には、責任準備金積立規則 (Deckungsruckstellungsverordnung) 4の改正が含まれている。責任準備金積立規則は、責任準備金計算に用いることができる最高予定利率を規定している。2025年1月1日に、最高予定利率が0.25%から1.0%に30年ぶりに引き上げられた。年金基金についても、年金基金監督規則 (Pensionsfonds-Aufslchtsverordnung) 5に規定されている新契約保証の最高予定利率が引き上げられた。

また、ソルベンシーIIの対象となる保険会社の最低資本要件の絶対下限が、資本資源規則 (Kapitalausstattungs-Verordnung) で調整された。これにより、連邦財務省 (Bundesmlnlsterlum fur Flnanzen) は、欧州委員会が発行した通知6に従った。
2.保険監督法に基づく規則を改正する第七規則7
2024年12月17日に施行されたこの規則は、ドイツ保険報告規則8、資本資源規則及び年金基金の監督に関する規則を改正することにより、とりわけ報告に関する技術的要件を変更した。新しい規則の重要な要素は、報告のためのXBRL (拡張可能ビジネス報告言語) 形式への切り替えである。
3.資産台帳エントリの電子送信に関するガイダンス通知9
2024年9月18日に施行されたこのガイダンス通知は、元受保険会社と年金基金がBaFinに資産台帳項目の標準化された電子送信を行う際に役立つ。会社は、2025年に実施される2024会計年度の資産台帳項目の電子送信に初めてガイダンス通知を適用する必要がある。
2|個人保険種類における進展
1.行動規範の遵守の監督
新たに公表された貯蓄商品の業務監督の実施の側面に関するガイダンス通知01/2023 (VA)に基づき、BaFinはこれまでに13社の生命保険会社をレビューした。その際、BaFinはリスクベースの監督アプローチに従った。そこでBaFinは、ペンションカッセンを除く約20%の養老生命保険会社を対象に調査を行った。

BaFinは、対象とする市場に対して十分なコストパフォーマンスを提供する商品を期待している。これは、顧客の保障に対するニーズや利回りに関する期待に応えなければならないことを意味する。特にユニットリンク商品の場合、保険会社は十分に達成される可能性のある目標リターンを設定しなければならない。顧客のかなりの割合が早期に解約することが予想される場合、保険会社はコストパフォーマンスを評価する際にこれを考慮しなければならない。

2024年8月下旬、BaFinはこの分野で既に実施した検査の結果を公表し、FAQ(よくある質問)リストをウェブサイトに掲載した。
2.ソルベンシーIIにおける経過措置の再計算
2024年6月、BaFinはドイツ保険監督法 (Versicherungsaufsichtsgesetz) 第352条第3項に基づき、技術的準備金に関する経過措置の再計算を命じた。

技術的準備金に関する経過措置は、主に生命保険会社のソルベンシーII監督体制への移行を容易にするために2016年に導入された。これにより、保険会社は2032年までの移行期間において、段階的に減少する移行控除によって技術的準備金を削減することができる。

多くの場合、ソルベンシーIIの技術的準備金がソルベンシーIの技術的準備金よりも低金利の結果として大幅に増加した時期に、経過措置控除が決定された。2022年以降の金利上昇により、これは一般的に逆転し、カバレッジ・レシオは大幅に上昇した。

技術的準備金の経過措置の額は、多くの場合、もはや適切ではなく、誤ったインセンティブを与える可能性さえあった。

再計算の目的は、現在の市場環境を適切に反映させることである。大多数の生保では、技術的準備の経過措置がゼロに引き下げられる。これは、経過措置が取り消されることを意味するものではなく、単に市場の変化に適応することを意味する。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月10日「保険・年金フォーカス」)

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