2025年07月02日

ドイツの生命保険監督を巡る動向(1)-BaFinの2024年Annual Report等の公表資料からの抜粋報告(主要な監督戦略・実務等の状況)-

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3―監督実務の主要分野

ここでは、BaFinが2024年のAnnual Reportの「2.監督実務の主要分野」に掲げている項目のうちの「2.5.デジタル化」、「2.6.サステナブルファイナンス」及び「2.7. BaFinの国際的役割」について、主として生命保険に関係する内容を中心に、Annual Report から抜粋して報告する。
1|デジタル化
DORA
DORAは、欧州の金融セクターにおいて、ICTによるサイバー攻撃やリスクに対するレジリエンスを高めることを目的としている。DORAは金融セクターのあらゆる部分に影響を与える。2023年1月17日に施行され、2025年1月17日から適用されている。したがって、DORAは現在、IT/サイバーセキュリティに関する監督機関の基礎となっている。なお、ドイツでは、ドイツ金融市場デジタル化法7によって、DORAを国内法に移行させるための措置が講じられた。
MiCAR
MiCAR(暗号資産市場規制)であるRegulation (EU) 2023/11148が2023年6月29日に施行された。この規制は、暗号資産に関する調和のとれた欧州の規制枠組みを構築し、金融の安定性と投資家保護を維持し、イノベーションを促進し、暗号資産の可能性を最大限に引き出すことを目的としている。MiCARは2024年12月30日から完全に適用されている。
データ分析の自動化
EIOPA(欧州保険年金監督局)の「New Internal Model QRTs」プロジェクトグループは、内部モデルのデータベースの監督を支援することを目的とした対話型アプリを開発した。これは、内部モデル用の新しい定量的報告テンプレート (QRTs) を使用して、ユーザーが監督機関に報告するデータを視覚化及び分析することによって行われる。

各国の管轄当局は、保険会社の内部モデルの継続的な監督にこのアプリを使用している。例えば、このアプリは、各リスクカテゴリーにおける個々の保険会社のリスクプロファイルと、そのリスクとエクスポージャーのパラメーターがどのように発展してきたかを示している。2025年には、このアプリを拡大し、保険会社間の相互比較を含める予定である。BaFinはプロジェクトグループのリーダーの一人を提供し、アプリの開発に重要な役割を果たした。
2|サステナブルファイナンス
EU開示規則
BaFinは2024年にEUのSFDRの実施に関する非代表的なサンプルを収集した。このサンプルは、金融市場の参加者が契約前の情報を広く定式化して使用することが多く、投資家が特定の金融商品の環境的・社会的特性や目的を理解することを困難にしていることを明らかにした。

BaFinは分かりやすい商品カテゴリーを提唱
2024年、BaFinは、EUタクソノミーなどの既存の持続可能性の定義にリンクした明確な基準を持つ、分かりやすい商品カテゴリーの創設を求めた9。金融機関は、持続可能な投資又は変革をもたらす投資の最低割合が高い場合にのみ、金融商品をサステナブルであると宣伝することを許可されるべきである。これは、例えば、ファンド名に関するESMA(欧州証券市場監督局)ガイドライン10に定められている。
SFDRのためにQ&Aを開発
BaFinは、ドイツの金融市場参加者がSFDRの要件を満たすことを支援するために、2024年に三種類のQ&A (質問と回答) を作成した。これらのQ&Aでは、主要な悪影響の文脈における「考慮する」という用語、開示規則に関連したデリバティブの取扱い方法、及び金融機関が公表することが求められる定期報告書について取り上げている。BaFinはまた、持続可能であると宣伝されている商品における防衛部門の投資など議論の余地のある投資を明確に示すことを推奨している。

気候・環境リスクの管理
BaFinは2024年に、物理的な気候リスクに関するテーマで銀行と保険会社を対象とした非代表的な調査を実施した。その結果、調査対象企業は原則としてESGリスクに取り組んでいることが明らかになった。

CSRDに向けた準備
現在進行中のCSRDの移行の一環として、BaFinは上場企業が提出する持続可能性報告書を審査する責任を負うことが期待されている。そのためBaFinは、国内及び欧州レベルでの現在の規制の進展を注視している。BaFinは、この任務に備えるために2024年に専門部署を設立した。法的枠組みが整備され次第、BaFinは監督活動を開始する。
3|BaFinの国際的役割
BaFinは、覚書(MoU)11に基づき、外国の監督当局と緊密に協力している。EU域内では、銀行同盟及びESFS(欧州金融監督制度)の枠組みの中で協力が行われている。BaFinは、欧州及び国際機関の多数の作業部会に専門的知識を提供している。
(1) EIOPA
EIOPAは、2024年に定期的なストレステストを実施し、その結果を公表した。その結果、欧州の保険業界は全体として資本が充実しており、十分な流動性資金を有していることが示された。また、ストレステストに参加したドイツの企業は、ストレスシナリオにおける流動性要件をカバーするのに十分な流動性資金を有していることも示された。

EIOPAはまた、保険会社の持続可能性リスクの慎重な取扱いに関する報告書12を公表し、化石燃料株と債券の資本要件の引き上げを提案した。さらに、EIOPAはNatCat(自然大災害)標準式の較正に関する意見書13を公表した。自然災害に対する保険適用のギャップを埋めるために、EIOPAは将来的にデータハブとしての役割を強化する予定である。

2024年に公表されたEIOPAのベンチマーク手法14は、BaFinの事業監督の実施において重要な焦点である適切な貨幣価値のトピックに取り組んでいる。
(2) ESRB
ESRB(欧州システミックリスク理事会)は2024年、欧州の金融セクターをサイバーリスクから強化する戦略の一環として、適切な手段を分析した報告書15を発表した。それは、国及び欧州レベルでの情報交換と調整のための措置に焦点を当てた。ESRBはまた、大規模なサイバーインシデントの際に重要な機能のための、可能なバックアップシステムについても検討した。

ESRBはまた、システミックな流動性リスクの測定に関する作業を継続し、2025年初頭に最終報告書16を公表した。
(3) IAIS
IAIS(保険監督者国際機構)は、2024年にICS(保険資本基準)を策定した。この基準は、PCR(規定資本要件)として定められている。ICSは、国際的に活動する保険グループの資本要件の計算を標準化することを目的としている。実施方法論は今後開発される予定である。

2024年には、IAISは流動性、カウンターパーティ・リスク、評価方法、資本要件、再建・破綻処理、気候リスクなどのトピックに関する改訂ICPs(保険基本原則)も公表した。
消費者保護の観点から、IAISは企業におけるDEI(多様性、公平性、包摂性)に焦点を当てた。

(4) FSB
金融安定理事会(FSB)の主要議題は引き続き、ノンバンク金融仲介セクター、デジタルイノベーション、気候変動による金融リスク、国境を越えた支払い、中央清算機関の清算可能性となっている。

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回は、BaFinの「2024年のAnnual Report」及び「BaFinが注目するリスク2025」に基づいて、ドイツの生命保険会社等の監督に関連して、不動産市場の調整、国際金融市場における大幅な調整、サイバーリスク、デジタル化、持続可能性といったトピックに関する状況について報告してきた。

Annual Reportについては、過去の結果報告が中心になっている部分が多いが、ドイツの生命保険業界等が抱えている各種の重要課題に対する、監督当局であるBaFinのスタンスや考え方、具体的な取組あるいは今後の方針等を窺い知るための有用な情報を提供している。

次回のレポートでは、Annual Reportの「I.スポットライト」の「2-2.リスク分類と(特別)検査」及び「II.企業の監督」の「2.保険会社及び年金基金」等、及びGDV(ドイツ保険協会)の公表資料等に基づいて、ドイツの生命保険会社等の監督及び業績等の状況について報告する。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月02日「保険・年金フォーカス」)

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