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- ECB政策理事会-トランプ関税を受け6会合連続の利下げ決定
2025年04月18日
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1.結果の概要:6会合連続利下げ
4月17日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・政策金利の引き下げを決定(預金ファシリティ金利で0.25%ポイントの引き下げ)
【記者会見での発言(趣旨)】
・ユーロ圏経済は異例の不確実性によって曇っている
・成長率に対する下方リスクは増している
・インフレに対するネットの影響は、時間が経過しないと明らかにならないだろう
・(声明文から金融政策の制限度合いに関する記載が削除されたことについて)金融政策において、制限的かどうかの評価はもはや適切ではない
・金融政策はこれまで以上にデータ分析に基づいた一貫性のあるアプローチが求められている
2.金融政策の評価:異例の不確実性のもと、よりデータ依存の決定に
ECBは今回の会合で、ディスインフレ過程が順調に進んでいる(on track)との前回の評価を維持しつつ、市場予想通りとなる預金ファシリティ金利の0.25%ポイントの引き下げを決定した。今年6月に利下げを開始して以降、7回目の利下げ(9月以降は6回連続での利下げ)となった。
前回3月の会合では、4月の利下げ停止(据え置き)にも含みをもたせた内容だったが、その後に公表された米トランプ大統領の関税政策を受けて、全会一致で利下げが決定された形になった。
関税政策への経済の影響については、異例の不確実性に見舞われていると述べつつ、ユーロ圏の需要に対する負の影響があり、また下方リスクも増していると評価した。ただし、様々に今後の展開が考えられることから影響度合いを定量化することはできず、インフレ率へのネットでの影響は、時間が経過しないと分からないとしており、金融政策もこれまで以上にデータ分析に基づいた一貫性のあるアプローチが必要で、新たなショックの展開に注意して適切な判断を下すことや、状況に応じた機敏さが求められていると述べている。
今後については、特に米国の関税政策の経過に依存する部分が大きいだろうが、大きな変更が無ければ、負の需要ショックが想定されていることから、次の6月会合でも利下げが行われ、政策金利は2%と見られる中立金利の中央値水準まで下げられるだろう。また、次会合では、ECBスタッフによる見通しが公表される。一定の前提のもとでの見通しではあるが、関税政策の成長率やインフレ率への定量的な評価がなされると見られるため、その内容が注目される。
前回3月の会合では、4月の利下げ停止(据え置き)にも含みをもたせた内容だったが、その後に公表された米トランプ大統領の関税政策を受けて、全会一致で利下げが決定された形になった。
関税政策への経済の影響については、異例の不確実性に見舞われていると述べつつ、ユーロ圏の需要に対する負の影響があり、また下方リスクも増していると評価した。ただし、様々に今後の展開が考えられることから影響度合いを定量化することはできず、インフレ率へのネットでの影響は、時間が経過しないと分からないとしており、金融政策もこれまで以上にデータ分析に基づいた一貫性のあるアプローチが必要で、新たなショックの展開に注意して適切な判断を下すことや、状況に応じた機敏さが求められていると述べている。
今後については、特に米国の関税政策の経過に依存する部分が大きいだろうが、大きな変更が無ければ、負の需要ショックが想定されていることから、次の6月会合でも利下げが行われ、政策金利は2%と見られる中立金利の中央値水準まで下げられるだろう。また、次会合では、ECBスタッフによる見通しが公表される。一定の前提のもとでの見通しではあるが、関税政策の成長率やインフレ率への定量的な評価がなされると見られるため、その内容が注目される。
3.声明の概要(金融政策の方針)
今回の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
(政策金利、フォワードガイダンス)
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
(その他)
- 理事会は、更新されたインフレ見通し、基調的なインフレ動向、金融政策の伝達の強さの評価に基づいて、本日、特に理事会が金融政策姿勢の操作に用いる預金ファシリティ金利など3つの主要政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した
- ディスインフレ過程は順調に進んでいる(on track)
- インフレ率は総合指数・コア指数ともに3月にスタッフが予想した通りに低下している
- サービスインフレもまたここ数か月、顕著に緩和した
- 基調的なインフレ指標のほとんどが、インフレ率が理事会の中期的な2%目標前後に持続的に落ち着くことを示唆している
- 賃金上昇率は鈍化しており、利益は部分的に依然として高止まりする賃金のインフレ率への影響を緩和している
- ユーロ圏経済は、世界的なショックに対して一定の強靭さを発揮しているものの、成長率見通しは貿易の緊張が高まっていることから、悪化した
- 不確実性の増加は家計や企業の景況感を悪化させ、貿易の緊張に対する金融市場の混乱や大きな変動といった反応は資金調達環境を厳格化させるだろう
- これらの要因はユーロ圏の経済見通しに対するさらなる重しとなる
- 理事会は、確実にインフレ率を中期的な2%目標で持続的に安定させると決意している
- 特に異例の不確実性がある現状において、理事会は適切な金融政策姿勢を決定するために引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチを行う(表現を修正)
- 特に金利の決定は経済・金融データに照らしたインフレ見通し、基調的インフレ率の動向、金融政策の伝達の強さへの評価に基づいて行う
- 理事会は、特定の金利経路を事前に確約しない
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 理事会は3つの主要政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した(金利の引き下げを決定)
- 預金ファシリティ金利:2.25%
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:2.40%
- 限界貸出ファシリティ金利:2.65%
- 25年4月23日から実施
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの元本償還分の再投資(変更なし)
- APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
(その他)
- 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
- インフレが2%の中期目標で持続的に安定し、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
- 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
4.記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
(冒頭説明)
(経済活動)
(インフレ)
(リスク評価)
(金融・通貨環境)
(結論)
(冒頭説明)
- (声明文冒頭に記載の政策姿勢への言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- ユーロ圏経済は異例の不確実性によって曇っている
- ユーロ圏の輸出業者は、その範囲は引き続き不透明ではあるが、新たな貿易障壁に直面している
- 国際貿易の混乱、金融市場の緊張、地政学的な不確実性は企業投資の重しとなっている
- 消費もまた消費者が将来に対してより慎重になるにつれ、控えられるだろう
- 同時にユーロ圏経済は世界的なショックに対して一定の強靭性を発揮している
- 経済は今年1-3月期に成長し、製造業も安定化の兆しが見られる
- 失業率は2月に6.1%まで低下し、ユーロ圏発足以来の低水準となった
- 堅調な労働市場、実質所得の上昇、我々の金融政策の波及が支出の下支えになるだろう
- 防衛支出やインフラ支出を増加させる国家およびEUレベルでの重要な政策取り組みが製造業を支援すると見られ、最新のサーベイ調査にも反映されている
- 現在の地政学的環境において、ユーロ圏経済をより生産的に、競争力を持ち、強靭化する財政・構造政策をより緊急に必要としている
- 欧州委員会の競争力コンパスは行動への具体的な行動計画を提供しており、その提案は簡素化も含めて迅速に遂行されるべきである
- これには、明確で野心的な予定表をもつ貯蓄・投資同盟の完成も含まれ、貯蓄者がより、投資機会に恵まれ、企業の特にリスク性資本に関する資金調達環境を改善するものである
- 潜在的なデジタルユーロの導入の基盤となる法律枠組みの迅速な作成も重要となる
- 政府は、EUの経済統治枠組みに沿った持続的な財源を確保し、不可欠な成長促進のための構造改革と戦略投資への優先すべきである
(インフレ)
- 3月のインフレ率は2.2%に低下した
- エネルギー価格が、2月にやや上昇した後、3月は1.0%の減少となる一方、食料インフレは2月の2.7%上昇から3月には2.9%上昇した
- 財インフレは0.6%で安定している
- サービスインフレは3月にも低下して3.5%となり、昨年末の伸び率よりも0.5%ポイント低下している
- 多くの基調的なインフレ指標は我々の2%の中期目標への持続的な回帰を示している
- 域内インフレは、24年末から低下している
- 賃金は緩やかに緩和している
- 24年10-12月期の雇用者1人あたり雇用者報酬伸び率は4.5%から4.1%に低下した
- 生産性の上昇はまた、単位労働コストの伸びがより鈍化したことを意味している
- ECBの賃金トラッカーや我々の企業調査による情報では、賃金上昇率が3月のスタッフ見通しで示した通り25年に低下することが示唆されている
- 単位利益は24年末に1.1%まで低下し、域内インフレの低下に寄与している
- 多くの長期のインフレ期待は引き続き2%付近で推移しており、インフレ率の我々の目標への持続的な回帰を支えている
(リスク評価)
- 成長率に対する下方リスクは増している
- 世界的な貿易の緊張激化と関連する不確実性により輸出停滞と投資・消費の鈍化でユーロ圏成長率が低下する可能性が高い
- 金融市場の景況感悪化は資金調達環境の厳格化をもたらす可能性があり、リスク回避姿勢を強め、企業や家計の投資・消費意欲を低下させるだろう
- ロシアの正当化されないウクライナとの戦争や、中東での悲劇的な紛争のような地政学的な緊張は引き続き主要な不確実性となっている
- 同時に防衛やインフラへの支出増加は成長を押し上げる可能性がある
- 世界的な貿易摩擦の増加がユーロ圏のインフレ見通しにさらなる不確実性をもたらしている
- 世界的なエネルギー価格の下落とユーロ高はインフレ率への下押し圧力になり得る
- これは、関税引き上げによるユーロ圏の輸出需要の低下や、生産過剰となった国々からのユーロ圏への輸出経路変更によって強化される可能性がある
- 貿易の緊張による金融市場への悪影響は内需の重しとなり、低インフレをもたらす可能性がある
- 対照的に、世界的な供給網の分断化は輸入物価の押し上げを通じてインフレ率を上昇させる可能性がある
- 防衛とインフラ支出の増加もまた中期的なインフレ率を上昇させる可能性がある
- 異常気象や気候変動危機がより広がることで、食料品価格が予想以上に上昇する可能性もある
(金融・通貨環境)
- 貿易の緊張激化に反応して無リスク金利は低下した
- 世界的に、株価は大きく変動しつつ下落し、社債スプレッドは拡大した
- ユーロは、投資家心理が他の経済圏よりもユーロの強靭性に向けられたことで、ここ数週間で増加した
- 最新の企業借入に関する公的統計は市場が緊張する前のものであり、我々の利下げにより企業借入コストは低下し続けていることを示している
- 企業向けの新規貸出平均金利は1月の4.3%から2月は4.1%に低下した
- 市場ベースでの企業の負債発行コストは2月に3.5%に低下したものの、足もとはやや上昇圧力が見られる
- また、企業向け貸出伸び率は2月に2.2%上昇し、負債証券の発行は3.2%で横ばいだった
- 同時に、ユーロ圏の最新の銀行貸出調査によれば、企業向けの信用基準は25年1-3月期にやや厳格化した
- 前期と同様、これは主に銀行が、顧客が直面する経済リスクをより懸念していることが主因である
- 企業の借入需要は、前期の緩やかな回復の後、1-3月期にはやや低下した
- 新規住宅ローン貸出金利は、以前の長期金利の上昇を背景に2月に3.3%となった
- 住宅ローン貸出は、2月は前年比では1.5%と低調ではあるが、銀行は信用基準を緩和、家計の住宅ローン需要は引き続き大幅に増加しており、上昇が続いている
(結論)
- (声明文冒頭に記載の決定に再言及)
(2025年04月18日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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